二宮(ニノミヤ)さんの作ってくれたカレー。すごく美味しいのに、なんだか喉につかえるような気がして、味がよくわからない。
オレは混乱しながら、目の前の人に話しかけていた。
どうしよう……オレのせいだ。
南国荘に泊まってもいいなんて、言うんじゃなかった。
「でも、えっと…お兄さん忙しいんじゃ…」
「まあね。だけど今は大学も春休みだし、バイトは明日まで休みを取ってあるから。大丈夫だよ」
「ヒロナリ、どんなバイトしてるの?」
「家庭教師をしているんです。わかりますか?」
「カテイキョウシ…OK、プライベートティーチャーだネ」
「ええ。すごいな、本当に日本語がお上手なんですね」
咲良(サクラ)さんが帰ってきて、二宮さんが夕食の用意をしてくれて。
一緒にダイニングテーブルを囲んでいるのは、オレと咲良さんと、二宮さんのお兄さん。浩成(ヒロナリ)さんだ。
二宮さんはずっと、どこか怯えた表情で、オレたちに近寄ろうとしない。
ほんとオレ、なんであんなこと言っちゃったんだろう。
学校から帰ってきて、二宮さんとお茶する話をしていたときに、ちょうどこの人は現れた。最初から二宮さんの様子はおかしかったのけど、オレはそんなに深く考えていなかったんだ。
南国荘へ来た経緯を聞いていた時も、全然何も思わなかったし、それより二宮さんのお兄さんだっていう、興味の方が大きかったから。話すのが楽しいとさえ、思っていた。
でもお兄さんと話しているうちに、どんどん二宮さんの顔色が悪くなっていって。
……今日さ、ちゃんとお兄さんに挨拶できる大人が、誰もいないんだ。
遅くなると言ってた榕子(ヨウコ)さんは、今もまだ帰ってないし。長崎へ出張に行ってる千歳(チトセ)さんと蓮(レン)さんが帰ってくるのは明日。伶(レイ)や雷(ライ)が部屋に篭ったら、めったに出て来ないのはわかってる。
咲良さんは大人だけど、二宮さんと同時期に南国荘へ来た人だし。子供のオレじゃ、ちゃんとした話は出来ない。
だから……ついオレ、明日までここにいられないの?って聞いちゃって。
部屋は空いてるから、泊まっても大丈夫なんじゃないかとか、勝手なことを言ってしまった。
キッチンでそれを聞いていた二宮さんが、いきなり真っ青になって、座り込んでしまったのを見たとき。
オレはようやく、自分がすごく余計なことを言ったって、気付いたんだ。
顔色をなくし、震える手で、二宮さんはオレにしがみついていた。
何に対してかはわからないけど、とにかく二宮さんが怖がってるんだって、やっとわかって。お兄さんと一緒にいたくないのかなって、すぐに答えが見つかって。
でももう、遅かった。