「…おやすみなさい」
自分もベッドに入って、淡い光の中、二宮さんの姿を見つめる。
すすり泣く声が聞こえてきた。
声を押し殺して泣いてるんだ。
……痛いくらい、唇を噛みしめる。
悲鳴を上げたくなるぐらい、胸が痛くてたまらないんだ。
何をしたらいいの?何を言えばいい?
手を握ってあげればいいのか、触れないほうがいいのか。声をかけたらいいのか、何も言わないほうがいいのか。オレには全然わからない。
どうしてこんな、役に立たないんだろう。
今そこで、大切な人が傷ついてるのに。
成す術もなく、見ていることしか出来ないなんて。オレはどこまで馬鹿なんだ。
悔しくて涙が溢れてくる。嗚咽が漏れてしまいそうで、いっそう唇を噛みしめる。
蓮さんだったら、何て言う?
咲良さんだったら、どうしてあげる?
大人になればわかるんだろうか。でも今、情けない子供のオレは、何をするのも怖くて動けない。
悔しいよ……混乱するばかりで、怖がっているだけで。オレが泣いてどうするの。傷つけられたのは二宮さんなのに。
オレに笑いかけてくれた。
まだ子供のオレを頼りにしてくれたんだ。
オレはいい気になって、二宮さんのこと全部わかってるような気がして。挙げ句の果てに……一番酷い事態に、二宮さんを追い込んでしまった。
何の根拠があって、自信なんか持ってたんだろう。助けたいとか、何かしてあげたいとか、何も出来ないくせに。
いつも蓮さんを頼ってばかり。咲良さんに助けてもらわなきゃ、二宮さんを隣の部屋から連れ出すことも出来なかった。
蓮さんみたいな頼れる人になりたい。
咲良さんみたいに強くなりたい。
大事な人も守れないような、こんな自分でいたくない。
なんでこんなに弱いんだろう。オレが泣いても仕方ないのに、泣き止むことさえ出来ないなんて。
息が出来ないくらい苦しい。二宮さんに手を伸ばしたい。
でもそのことがまた、二宮さんを傷つけてしまったら。触れたいと思う気持ちが、オレのワガママでしかなかったら。
考えても考えても答えが見つからない。
どうしたらいいの。オレじゃ二宮さんを助けられないよ。
少しずつ外が明るくなって、暗いばかりの夜が終わる。
全然寝ていないオレは、二宮さんも寝てないのを知ってた。
朝日が差し込む前に、隣のベッドで細い身体が起き上がる。ゆっくり立ち上がった二宮さんに、掛ける声さえ出てこない。
「ごめんね、虎臣くん…」
小さな囁きを残して、部屋を出て行った。
オレは枕を握り締めて、また泣くことしか出来なくて。
毎日と同じように目覚まし時計が鳴り出すまで、情けない自分を詰りながら、零れそうになる嗚咽を噛み殺していたんだ。
《ツヅク》