【南国荘U-K】 P:12


 ちょっと遅いような気がするけど……長風呂の人なら、普通なのかな。まさか出てこないつもりじゃないよね?
 声を掛けた方がいいのかな。
 迷っていたオレは、中から苦しそうな声がするのを聞いて、咄嗟にドアを開けてしまった。

「二宮さんっ」

 ちゃんとオレの服に着替えてくれてる。
 でも二宮さんは洗面台にしがみついて、苦しそうに咳き込みながら吐いていた。

「大丈夫?!」

 慌てて背中をさする。
 びっくりした。二宮さんの背中、こんなに細いんだ。
 嫌がって首を振ってるけど、そんなこと言っていられない。

「嫌がらないで、酷いことしないから。我慢しなくていいよ…全部吐いて。その方が楽になるよ」

 水を出して、何度も背中をさする。
 顔色悪い。二宮さんの横顔は、青いのを通り越して白く見えるくらいだ。
 そういえば二宮さん、夕食を食べてなかった。あの時からもう、浩成に怯えてたんだ。
 気付かなかったなんて、オレはどこまでバカなんだろう。
 二宮さんはいくら吐いても、胃液しか出てこないみたい。薬とか飲む方がいいのかな……でもこういう時は、何の薬なんだろう。
 悔しいよ、オレ本当に、何の役にも立たないんだ。
 しばらく咳き込んだり吐いたりしていた二宮さんは、何度か深呼吸を繰り返して、自分で出しっぱなしの水を止めた。

「…も、いいから…」

 掠れた声。うん、と頷いて二宮さんから離れ、いつも枕元に置いてあるミネラルウォーターのペットボトルを取りに行った。
 水道の水で口をゆすいでたけど、それだけじゃ足りないような気がして。

「これ、飲んで」
「…うん」

 ボトルのキャップを外して手渡したら、二宮さんはちゃんと返事をして、両手でそれを受け取ってくれた。
 ゆっくり喉を潤してる姿を見て、オレは息を吐き出す。少し落ち着いたみたいだ。

「もういいの?」
「…ごめん」
「ん、大丈夫。枕元に置いておくから、また喉が渇いたら飲んでね」

 ゆっくり背中を押して、千歳さんのベッドに寝てもらう。横になった途端、二宮さんはオレに背を向けた。
 女の子と同じだとは思わないけど、やっぱりこういうとき、酷いことをした人間と同じ男は、そばにいて欲しくないのかな。
 オレだって男だし……それに、いま二宮さんが傷ついてる原因を作った一人は、確実にオレなんだ。
 いくら咲良さんや二宮さん自身が、否定してくれても。オレがあの男を南国荘に泊めてしまった。その事実は変わらない。
 どうしよう……もしオレがここにいるだけで、二宮さんを傷つけていたとしら。

「二宮さん、オレいない方がいい?」
「………」
「一人になりたいんだったら、オレ…」

 ゆっくり首が振られる。でもこっちを見てくれることも、返事をしてくれることもなかった。
 オレはしばらくその場に立ち尽くしていたけど、何も出来なくて。ベッドサイドの明かりをつけてから、部屋を暗くする。