ちょっと遅いような気がするけど……長風呂の人なら、普通なのかな。まさか出てこないつもりじゃないよね?
声を掛けた方がいいのかな。
迷っていたオレは、中から苦しそうな声がするのを聞いて、咄嗟にドアを開けてしまった。
「二宮さんっ」
ちゃんとオレの服に着替えてくれてる。
でも二宮さんは洗面台にしがみついて、苦しそうに咳き込みながら吐いていた。
「大丈夫?!」
慌てて背中をさする。
びっくりした。二宮さんの背中、こんなに細いんだ。
嫌がって首を振ってるけど、そんなこと言っていられない。
「嫌がらないで、酷いことしないから。我慢しなくていいよ…全部吐いて。その方が楽になるよ」
水を出して、何度も背中をさする。
顔色悪い。二宮さんの横顔は、青いのを通り越して白く見えるくらいだ。
そういえば二宮さん、夕食を食べてなかった。あの時からもう、浩成に怯えてたんだ。
気付かなかったなんて、オレはどこまでバカなんだろう。
二宮さんはいくら吐いても、胃液しか出てこないみたい。薬とか飲む方がいいのかな……でもこういう時は、何の薬なんだろう。
悔しいよ、オレ本当に、何の役にも立たないんだ。
しばらく咳き込んだり吐いたりしていた二宮さんは、何度か深呼吸を繰り返して、自分で出しっぱなしの水を止めた。
「…も、いいから…」
掠れた声。うん、と頷いて二宮さんから離れ、いつも枕元に置いてあるミネラルウォーターのペットボトルを取りに行った。
水道の水で口をゆすいでたけど、それだけじゃ足りないような気がして。
「これ、飲んで」
「…うん」
ボトルのキャップを外して手渡したら、二宮さんはちゃんと返事をして、両手でそれを受け取ってくれた。
ゆっくり喉を潤してる姿を見て、オレは息を吐き出す。少し落ち着いたみたいだ。
「もういいの?」
「…ごめん」
「ん、大丈夫。枕元に置いておくから、また喉が渇いたら飲んでね」
ゆっくり背中を押して、千歳さんのベッドに寝てもらう。横になった途端、二宮さんはオレに背を向けた。
女の子と同じだとは思わないけど、やっぱりこういうとき、酷いことをした人間と同じ男は、そばにいて欲しくないのかな。
オレだって男だし……それに、いま二宮さんが傷ついてる原因を作った一人は、確実にオレなんだ。
いくら咲良さんや二宮さん自身が、否定してくれても。オレがあの男を南国荘に泊めてしまった。その事実は変わらない。
どうしよう……もしオレがここにいるだけで、二宮さんを傷つけていたとしら。
「二宮さん、オレいない方がいい?」
「………」
「一人になりたいんだったら、オレ…」
ゆっくり首が振られる。でもこっちを見てくれることも、返事をしてくれることもなかった。
オレはしばらくその場に立ち尽くしていたけど、何も出来なくて。ベッドサイドの明かりをつけてから、部屋を暗くする。