人はボクを、冷たいと言うかもしれない。
でも人生は、自らの手で切り開かなければならない。ボクはそう信じてる。
助けてと叫ぶのも、逃げだそうとするのも、ボクは責めたりしないよ。それが自分で選んだ道だったらね。
「アオキ、いいんダネ?」
笑みを納めてそう聞いたボクに、顔色の悪いアオキは頷いた。怯えた表情をしてる。隣にいるヒロナリのせいなんだろうね。
南国荘に帰ってきて紹介を受けた、アオキの兄だという人。彼はアオキにとって、よほど恐ろしい存在なんだろう。表情を見ていればわかるよ。
一緒にいたくないのか、アオキはキッチンに逃げ込んで、出てこようとしなかった。それでもヒロナリは、今夜は南国荘に泊まるらしい。
トラオミは何度も宿泊を撤回させようと、話しかけていたけど。ヒロナリは柔らかい口調で、しかし絶対に受け入れようとしなかった。
相当、意志の強い人なのかな。話している間も、ときどき視線が鋭くなる。アオキとは全然似ていない。
だから……ほんの少しでも、アオキが自分の意志を示したら。
たった一言でも、助けてほしいと呟けば、ボクはそうしてあげただろう。だけど彼は、自分で決めて頷いたんだ。
「…はい」
「OK。じゃあオヤスミ」
「おやすみなさい…」
半歩前を歩くヒロナリに、アオキがついていく。二人が去っていくのを、トラオミはとても心配そうに、でも黙って見送った。
少年の肩に手を置いて、整った顔をのぞき込む。悔しそうに唇を噛んでいた。
何度も何度も、助けようとしたトラオミ。だけどアオキは、自分の意志で拒んだんだ。
思いが通じないのは、悲しいね。
ボクは強くトラオミを抱きしめる。
「咲良(サクラ)さん…」
「アオキが自分でキメタことダヨ」
「だけどっ」
「ン、ワカッテル…ナキソウな顔、シテタ」
「そうだよ…あんな顔して…なのに」
「トラオミ」
何度かさらさらと真っ直ぐな髪を撫でていたら、トラオミは小さく「オレのせいだ」と呟いた。
「チガウ」
「違わないよ!オレが悪い。オレが何も考えず、勝手に」
「チガウよ。落ち着いてトラオミ」
後悔に震える肩を、ぎゅうと抱き寄せる。落ち着いて、ともう一度繰り返し、ボクは小さな頭を撫でていた。
「今日ダレモいない。トラオミの言ったことはトウゼンの判断デショ。その結果、アオキが望まないテンカイになったかもシレナイけど、トラオミは何度もタスケヨウとした」
「咲良さん…」
「デモ、アオキ自身がキョゼツした。ダレのせいでもナイ。ソレゾレが決断したケッカなんだから。トラオミは悪くナイ」
レンとチトセが出張から帰ってくるのは明日。ヨウコさんも出掛けていて、まだ戻っていない。
ボクだって、ヒロナリがアオキのお兄さんだと知ったとき、彼に興味を持った。ボクよりアオキと仲のいいトラオミが、誰か帰ってくるまでいて欲しいと言ったのは、当然の判断だと思う。