【南国荘U-L】 P:02


 ヒロナリとアオキが普通の兄弟なら、トラオミの配慮は褒められこそすれ、こんな後悔に繋がらなかっただろう。

 人にはね、どんな状況であっても、手を差し伸べてくれる誰かがいる。ボクはそう信じてるんだ。
 だけど差し伸べられた手に気付かなければ、あるいは気付いたとしても、その手を掴まなければ。助けてもらうことは出来ない。
 アオキの前には、トラオミもボクもいた。
 助けてと声を上げれば、必ず助けてあげたよ。
 でもアオキには、そう出来ない何かがあったんだろう。恐怖か、それ以上の何かなのか、ボクにはわからないけどね。
 結果として、アオキが救いから背を向けるなら、ボクたちは黙って見送るしかない。

 悪いのはトラオミじゃない。
 もちろん、アオキでもヒロナリでもない。
 それぞれが精一杯考えた。良い悪いは関係ない。これは、事実だ。

 ボクの腕の中で、トラオミが顔を上げる。
 辛そうに顔を歪めていた。
 安心して、と囁く代わりに笑いかける。
 キミが一生懸命だったこと、ボクはちゃんと見ていたよ。アオキを助けることは出来なかったけど、キミは出来る限りのことをしたんだ。
 泣かないでトラオミ。
 キミはけして悪くない。

 少しだけほっとした表情を浮かべたトラオミは、甘えるように身体を預けてくれる。
 ボクは何度でも彼の髪に触れ、強く肩を抱きしめる。

「二宮(ニノミヤ)さんのお兄さん、連れ戻しに来たんだって」
「アオキを?」
「うん…二宮さんがそう言ってた」
「ソッカ。ソレでトラオミは、タクサン後悔してるんダネ」
「うん…」

 せっかくアオキの素敵な所をたくさん見つけて、彼の微笑みを手に入れ始めたトラオミだから。引き離されるのはイヤだよね。
 家族として、ヒロナリがアオキを心配しているなら、その気持ちをないがしろにしちゃいけないけど。
あの様子では、アオキはけして、家に戻ることを望んでいないんだろう。
 ボクは少し思案して、元気よくトラオミの腕を叩いた。

「ダイジョーブ。そんなことにはナラナイ」
「え?」

 自信を持って断言するボクを、トラオミは驚いた顔で見つめてる。
 大きな瞳、かわいいね。
 アオキはトラオミのそばにいる方が、きっと幸せになれる。
 きれいな光の宿る、トラオミの瞳。この光に包まれていたら、アオキはもっと笑えるようになるよ。
 ボクの自信がよくわからないんだろう。トラオミは少しだけ首を傾げた。

「なんで?だって二宮さん、お兄さんには逆らえないって言ってたよ」
「アオキがヒロナリに逆らえないなら、ナンゴクソウのみんな、トラオミに逆らえない」
「は?…オレ?!」

 びっくりした顔で、トラオミが自分を指さしてる。ボクは「ソウダヨ」と頷いて、にいっと口の端を吊り上げた。