玄関が閉まる音。隣で咲良が溜息を吐いていた。
「…ヒロナリはアイシ方、間違ったんダネ。アオキにはナニモ伝わらナカッタ」
「咲良…」
「ボクが、傷つけてコワシてしまったものは、もうモドラナイって言った時。トテモ苦しそうダッタヨ」
「…そうか」
「ン…次はヒロナリもチャント、レンアイできるとイイネ」
「お前…」
咲良を見上げる。
俺は自分が日本人では長身な方だから、こうやって誰かを見上げたり、逆に見下ろされたりするのが苦手なんだが。明るい咲良の表情は眩しくて、悪くないように思うんだ。
こういうところが、千歳を不安にさせた原因なのかもな。
「寛容なんだな」
「ボク?」
「ああ」
「ウレシイな。ホレ直した?」
「元から惚れてねえだろ」
言い返しながらも笑って、俺は自分が荷物を置いたところまで戻り、ライカを手に取った。
「トラオミ、どうしてるカナ〜」
「さてね。上手くやってんじゃねえか?」
「ン〜…ソウだとイイケド、ちょっとサミシイ。トラオミとレンアイしたかったナ」
「本気で節操がないな、お前。そんなに言うなら取り返しに行ったらどうだ?」
「ヒドイよレン、ホントに行ったら止めるクセに」
「そうでもないさ。まだ間に合うぞ?」
「アハハ、でもヤメとくヨ。カレはアオキのナイトなんだから。キノウのトラオミ、すごくカッコ良かったんだ」
微笑んだ咲良が振り返る。ファインダーを覗いていた俺は、シャッターを切った。驚いた様子の咲良に笑ってやる。
いいんだよ。このライカは家族を撮るためのものだと、決めているからな。
《ツヅク》