【南国荘U-N】 P:14


 落ち着かないと。だってそんなの、ほんとに勘違いかもしれないし。
 でも……でももし勘違いじゃなかったら。

 どきどきしながら顔を上げる。
 虎臣くんがぼくの言葉を待ってる。

「…ぼくは」
「うん」
「ずっと、助けてもらってる…虎臣くんのこと、カッコいいと思ってる、よ」

 自覚してしまったら、自分の話す言葉全部が、何か違う意味に思えてくる。
 ぼくだけなの?

「さっきも、リビングで…兄さんの前で、虎臣くんが手を握っていてくれたの、嬉しかった」
「ほんと?」
「うん」
「じゃあオレが手を握ってたら、蒼紀は嬉しいんだ?」

 言いながら、虎臣くんがぼくの手を握る。
 うるさいくらいの鼓動を聞きながら、虎臣くんを見つめる。
 瞳が少し茶色いんだね。咲良さんほどじゃないけどでも、優しい甘い色。子供の頃に好きだった飴みたい。
 ぼうっとそんなこと考えてたら、唐突に虎臣くんの顔が近づいてきて。
 ちゅって、何の前触れもなく口付けられた。

「…え」
「え?…うわっごめん!」

 一瞬のうちに虎臣くんの顔が、真っ赤になった。
 もしかして、全然何も考えずにしたの?
 あたふたと慌てて、虎臣くんともあろうものが、言葉を見つけられないみたい。ぼくの身体から手を離すことさえ、思いつかないんだ。
 口元に笑みが浮かんでしまった。
 カッコいい虎臣くんのこと、可愛いって。ぼくは初めて思っていた。


《ツヅク》