【南国荘U-N】 P:13


 だって虎臣くんが許してくれるんだから。
 ぼくは少しぐらい、ワガママになってもいいんだ。

 少しずつ落ち着いていく。でも虎臣くんから離れたくなくて、ちょっとだけ泣き止むのがもったいないような気がしてしまう。
 ゆっくり顔を上げたら、虎臣くんはほっとした顔で笑った。
 想像していたよりずっと力強い指先が、ぼくの目元を拭ってくれる。

「…こんな時、なんて言えばいいのかな…」
「虎臣くん…」
「情けないよね…もっと気の利いたこと、出来たらいいのに」

 そんなことない。首振るぼくを見て、虎臣くんはため息を吐きながら目を閉じる。
 まつ毛、長いんだ……きれいな顔。
 ぼくのせいで目が腫れてるのに、そんなの全然気にならない。カッコいいとは思ってたけど、それだけじゃなくて、すごく整った顔をしてるんだ。
 ぼうっとしてしまう。こんな近くで虎臣くんの顔を見たの、初めて。

 虎臣くんはゆっくり目蓋を上げると、ぼくの身体を抱いたままベッドに寄りかかった。引っ張られて、身体の全部、虎臣くんに預けるような体勢になってしまう。

「ずっとね」
「…え?」
「うん、ずっとオレ、好きな人の前ではカッコよくないと、って思ってた」

 何かを思い出しているんだろう。虎臣くんはぼんやり前を向いたまま話してる。でもその間も、優しい手がぼくの髪に触れていた。

「蓮さんって、千歳さんの前ではいつも落ち着いてるじゃん?好きな人の前ではあんな風にしてるのが、当たり前なんだって思ってたんだ。いつでも頼りになって、颯爽と助けてあげられなきゃ、いけないんだって」
「………」
「だからオレも好きな人が出来たら、そう出来るんだろうなってさ。…何の根拠もないのに、そんな自分ばっかり想像してた」
「虎臣くん…」
「なのに蒼紀の前だと、オレは何も出来なくて。情けないばっかりで、そんな自分がイヤだなって思うのに。じゃあオレ以外の誰かに、蒼紀のこと助けて欲しいのかっていうと、そうじゃないんだよね」

 じいっと虎臣くんを見つめながら話を聞いていたぼくは、ふと気付いたことに動揺してしまった。
 だって虎臣くん、それ、好きな人の話じゃないの?蓮さんと千歳さんって、だって。
 どうしよう、勘違いかもしれないのに、顔が熱い。

「こういうこと、直接蒼紀に聞くのって、ほんとカッコ悪いんだけど。何して欲しい?」
「え…え?」
「蒼紀のために何かしたい。どうしたら蒼紀は嬉しい?…オレ、なんでもしてあげるって言ったよね。蒼紀がして欲しいこと、全部してあげるよ…」

 ぼくを見下ろす虎臣くんの顔、すごく落ち着いて見える。
 自分で言ったこと、気付いてないの?それともやっぱり、ぼくの勘違い?
 顔がどんどん赤くなってるの、自分でわかる。

「蒼紀?」