やっぱりそうだ。
オレの最悪な予感は、当たってた。
昨日、無理やり二宮(ニノミヤ)さん……蒼紀(アオキ)を抱いた浩成(ヒロナリ)は、今までもずっとあんな、酷いことを続けてたんだ。
嫌がる蒼紀を押さえつけて。どんなに泣いても許さずに。
ムカつく……すごいムカつくけど、それより悔しいよ。なんで誰も気付いてあげなかったの?
蒼紀が自分で逃げ出してくるまで、誰も助けてあげなかったなんて。
オレに聞いて欲しいと、蒼紀が話してくれた過去は、正直オレの想像出来る範囲を超えていた。
嫌な話だから気持ち悪いと思うかもしれない、オレの迷惑になるかもしれないと、不安がる蒼紀に、オレは話してって答えたけど。
確かにすごい、いまオレ吐きそう。
浩成の行動が理解できなくて。
聞かせてって言ったことを後悔はしていないけど、蒼紀がされたあまりにも酷い仕打ちに、うまく気持ちを対処できない。
自分で話した辛い過去に、蒼紀はぼろぼろ泣いてる。
抱きしめることしか思い浮かばないんだ。他にどうしたらいい?無力な自分が苦しい。
優しくしたいよ。いっぱい優しくしてあげたいけど、何が蒼紀を幸せにするんだろう。
オレに出来るのは、ただ泣いてる蒼紀を受け止めるぐらいだ。
「…泣き止めなんて言わないから、たくさん泣いて…」
「ぁ、あ…ぅぁ…っ」
蒼紀と一緒に考えればいいって、蓮(レン)さんに言われた。でも今はオレも蒼紀も、難しいことを考えられそうにない。
だから、気の済むまで泣いていてほしい。
蒼紀がどんなに泣いても、オレはここにいるから。
強い力でオレの腕を掴んで、蒼紀は泣き続けてる。肩を抱いて、髪を撫でて。オレには待ち続けることしか出来ない。
本当は「泣かないで」って言いたいんだ。でもそんなこと言ったら、また蒼紀は我慢しようとするから。
それだけはイヤだ。
もう何も我慢しないで。オレの前では頑張らなくていい。
蒼紀は一人で戦ってたんだね。
どんなに自分が苦しくても、お母さんのため、家族のために耐えていたんだ。
オレの両親も再婚してるけど、そういうの考えたこともなかった。
理子(リコ)と千歳(チトセ)さんはいつだってオレのことを最優先に考えてくれたし。そもそも千歳さんに「お父さんになって!」って言ったのはオレなんだから。
家にも学校にも逃げ場がないなんて、想像できないよ。
理子に叱られたとき、納得できなくてムカついたら、学校で友達に話してた。
逆に学校の友達とトラブった時は、千歳さんに相談したり、理子に聞いてもらったり。
そういうバランスの中で、みんな生きてるんだと思ってた。
なのに蒼紀は、誰にも何も言えず、辛いことも苦しいことも、自分の中に封じ込めるしかなかったんだ。