もう何も出来ない過去のことなのに、今のオレがその場にいたら、絶対蒼紀を助けてあげたのにって。思ってしまう。
なんで誰も気付いてあげなかったんだ。
蒼紀はこんなに傷ついたのに。
オレに聞いて欲しいって言ってくれた。何も出来ないガキのオレに。
本当はオレと出会う前からずっと、誰かに聞いて欲しいって思ってたはずなんだ。
お母さんとかお父さんとかさ。
浩成だって蒼紀が好きなんだったら、無理矢理なことするより先に、しなきゃいけないこと、いっぱいあるじゃん!
好きだから抱いたんだろ?!なんだよ蒼紀が誘ったって。誰がお前なんか誘うかよ!
自分がヤリたいの、蒼紀のせいにして。どんなに傷ついても離さないで。
いっそ「好きだ」って言ってれば、蒼紀は少しぐらい楽になったかもしれないのに。
たぶん蒼紀は、浩成の気持ちに気付いてないと思う。怖がって耐えるのに必死で、浩成が自分を好きだなんて、想像もしていなかったんだろう。
教えてあげれば、蒼紀は楽になるのかもしれないけど。
オレは絶対、教えない。
蓮さんが蒼紀に「お袋さんには自分で連絡しろ」って言ってた。当然だと思う。オレもやっぱり、お母さんとは仲良くして欲しい。
だけど、いくらお母さんのためでも、蒼紀が実家に帰るのは絶対許さない。もう二度と蒼紀と浩成を、二人で会わせたりしない。
どうしても実家に行かなきゃいけない事態が起こったら、オレが一緒について行く。
腕の中の蒼紀が、ちょっと身じろいだ。
慌てて顔を見たら、蒼紀の涙は止まっていた。少し落ち着いたみたいだ。
……オレはバカだ。
昨日、あんなに泣いて後悔したのに、また自分のことばっかり考えて、何も出来なかった。
蒼紀の目、濡れてる。そう気付いてゆっくり目元を指で拭う。
泣き顔も可愛いと思うけど、こんな悲しい涙を見るのはやっぱりイヤだよ。
だけどそのために何を言えばいいのか、オレにはわからない。
「…こんな時、なんて言えばいいのかな…」
「虎臣くん…」
「情けないよね…もっと気の利いたこと、出来たらいいのに」
蒼紀は首を振って、オレを宥めてくれた。
それでもオレは悔しくて、目を閉じる。
ほんとバカだ。昨日からオレ、蒼紀のために何が出来るんだろって、考えるたびに自分のしたいことばっかり思いつくんだから。
蒼紀を抱きしめたまま、自分のベッドに寄りかかる。身長はあんまり変わらないけど、華奢な蒼紀よりオレの方が、たぶん力はあると思うから。オレに身体を預けて、休んでほしかったんだ。
昨日はほとんど寝てないだろうし、色々あってきっと、心も身体もへとへとだよね。何にも出来ないけど、身体を支えるくらいは出来るよ。
「ずっとね」
「…え?」
「うん、ずっとオレ、好きな人の前ではカッコよくないと、って思ってた」