M咲良
最終話ドタバタ
・ダイニングに座る咲良は、じっと目の前で繰り広げられる光景を見ていた。
・本日、日曜日。快晴。蓮と千歳はお買い物。蒼紀が初めて自分から「だったらぼくがお昼の用意、しましょうか?」と言い出し、蓮に「頼む」と言ってもらえて、嬉しそうにキッチンに立っている。
・昼食の用意をしている蒼紀と、それを手伝う虎臣。手が触れては慌てて離し、ぎくしゃくしながら微笑みあう。なにやら二人は、可愛らしい恋愛を始めたらしい。
・そもそも浩成を追い出してやったのは自分なのに。それすらも蒼紀の中では「虎臣くんのおかげ」になっているのだ。もちろん虎臣が勇敢で可愛いナイトだということは咲良も認めているが、だからって放っておかれるのは寂しい。
・蓮に失恋した心の穴を、虎臣に埋めてもらうつもりでいたのに、いつの間にか自分は、可愛いナイトを蒼紀に持っていかれてしまった。
・むっとして咲良は立ち上がった。「サミシイよトラオミ!ボクにも構ってヨ〜オテツダイするからっ」ぎゅうっと背後から抱きついて、「ネ?」と言いながら頬に口付けたら、蒼紀が「ちょ、ダメです!」なんて、慌てて咲良を引き離す。
・赤くなっている蒼紀。びっくりして、でもにやにや笑っている虎臣。「なに?嫉妬した?」「ち、違うよっ」「いいじゃん、嫉妬してよ」「虎臣くんっ」…もうやってられない。
・オレが好きだって言えばいいじゃん、なんてやりだす二人を放り出し、大きくガラス扉の開いた南国荘リビングで、庭に向かう咲良は溜息を吐く。キューピットなんてするつもり、なかったのに。
・「イイなあ…シアワセそうで」一人寂しく零していたら、どこからか「次から次に乗り替えるからですよ」と辛らつなご意見が。顔を上げればそこに、見覚えのある男が立っていた。
・誰かと思えばいつかの花屋だ。どこから現れたのだろう。まさか彼が榕子や千歳のいう妖精さん?
・「キミ、このニワに住んでるノ?」「そんなわけないでしょ」「だってボクが困ってたら、カナラズ現れるデショ」「いつ会っても君が勝手に困ってるんですよ」にこにこしてるくせに、なんか冷たいんですけど。
・「虎臣にかまけてたかと思ったら、今度は花屋か。お前も大概、節操がないな」酷い言葉に振り返ってみれば、庭から蓮と千歳がお帰りだ。呆れた顔で中へ入っていこうとする蓮を捕まえ、抱きついてみる。
・「レンがボクをアイシてくれないからデショ!」と訴える咲良を「いい加減にしてって言ったでしょ!」と千歳が引き離すから「チトセはボクにだけツメタイ!」と目的変更して抱きつく。蓮に頭をはたかれ千歳を奪い返されえてしまった。
・「オトナが揃って何喚いてんの?オレと蒼紀に昼メシの用意、押し付けといて」呆れた虎臣が現れる。隣に立っている蒼紀までなんだか笑ってるし。
・拗ねた咲良はその場に座り込み「みんなシアワセそうでイイネ!」とキレぎみ。頭を撫でてくれる手があるから、嬉しくなって顔を上げれば、笑みを浮かべるお花屋さんが。でも「自業自得って日本語、知ってます?調べてみるといいですよ、君のことだから」って。ほんとこの人、笑顔なのに酷いことばかり。最初に会ったとき、ここまで送ってくれた彼は優しかったのに。
・「…そういえば、二宮」「はい?」「新しい仕事を引き受けることになってな…家の面倒を見てくれる人間を、雇おうかと思ってるんだ」「え?」「蓮がそう言うから、だったら二宮くんが適任じゃないかなって話してたんだよ。もしまだ仕事を見つけてなかったら、どうかな?」蓮と千歳の言葉に咲良が立ち上がる。驚いた顔の蒼紀は、躊躇いがちに虎臣を見た。虎臣は優しく笑って、蒼紀の手を握る。
・「いいんじゃない?やってみれば」「ぼくに…出来るかな」「大丈夫だよ、ゆっくり慣れていけばいいし。オレは蓮さんの店っぽいメシより、蒼紀の作る家っぽいメシを毎日食いたい」それってプロポーズ?でも本人たちにその気はないみたい。
・「じゃあ…あの、やりたいです。やらせてください」初めて蒼紀が自分から、自分の望みを口にした。ずっと下ばかり向いていた蒼紀が、とても幸せそうに笑ってる。
・千歳はちょっと困った顔で「理子さんになんて言おう…」なんて呟いていたけど。
《了》