甘く接吻けて【特集】前編 P:03


 約束を反故にすることで、鷹谷にどんな意地悪な仕返しをされるかわからないが、それでもこんな旭希を見てしまったら、安心して美味しい酒を楽しんだり出来るはずもない。
「ん……」
「旭希?」
 ため息の様な声が聞こえて、炯は携帯電話から目を離し、そっと旭希の首筋に手を当ててみる。
 薬を飲んだばかりでは、まだ熱が下がっているはずも無く、触れた首筋はさっき額に手を当てた時よりも熱く感じるくらいだ。苦しそうに眉を寄せる旭希の顔を見つめて、炯はベッドの端に腰を下ろした。
 目が覚めた時、そばに自分がいたら少しは喜んでくれるだろうか?普段の生活では旭希に頼ってばかりの自分をわかっている。感謝を返せる機会は無駄にしたくない。
 旭希を見下ろしていた炯は、ふと彼の長い前髪をかき上げてやった。
 こうして目を閉じていると、普段のきつい眼差しが隠され、少しだけ幼さが伺えるような気がする。
 そうまるで、出会った頃のように。
「何て言うか……育ったよねえ」
 あの頃はお互いまだまだ子供で、大きな学ランに身体が追いついていなかった。くすっと笑った炯はベッドの端に座り、携帯電話を握ったまま旭希の頬を軽く撫でてみる。

 初めて出会ったとき。
 中学の入学式には、開花の遅れていた桜の花が満開になっていて。そういえば旭希も炯も、二人揃って新入生たちの噂になっていた。