時雨は絡めていた指を離し、桜太の脇に手を入れると、そのまま軽い身体を反転させた。向き合う桜太の頬が、少しだけ強張っている。
「心配、したよ?」
「うん」
「まあねえ…黙ってついて行ったのは、やり過ぎだったね」
「もう、いいよ」
「いや、あたしが悪かったよ。すまなかったね、桜太」
「うん」
謝罪の言葉を返した時雨に、ようやく桜太が微笑んだ。
ほっとした表情になった時雨が、ふと思い出したことに、苦く笑う。
「…なんでも、話した方がいいかい?」
「え?…それは…やっぱり。話してほしいよ」
「…聞いたら恥ずかしくて、帰りたくなるかもしれないよ?」
「ならないもん」
時雨の肩に手をかけた桜太は、身体を浮かせてちゅっと時雨の唇を吸った。
「今日は、帰らない」
「絶対だね?」
「絶対」
約束する、と小指を伸ばして見せる。時雨は誓いの小指を絡め、そこに唇を押し付けた。
「時雨?」
そのまま舌を這わせ、小指だけじゃなく手首のあたりまで舐めていた時雨は、思わず身を捩った桜太に、ちゅうっと吸い付いた。
「んっ…ぁ」
「桜太を行かせたくなかった、もう一つの理由なんだけどさ」
唇を触れさせたまま、桜太の手に舌を絡める合間に時雨が喋るから。桜太の背中を、何かがぞくぞくと走り回る。
「あ…あ、んっ」
「昨日はお前さんが翌日に遠出するなら、疲れさせちゃいけないと思ってね」
「やっ、しぐれ…ゆび、はなしてっ」
「駄目」
「あぁ、ん…やっ」
「たくさん桜太を可愛がってやろうと思ってたのに、どうしようかってさ」
「まって、ね…しぐれっ、あっぁ」
身を震わせる桜太は、もじもじ膝を擦り合わせていた。気づいた時雨が指への愛撫をやめないまま、桜太の足を開かせる。
「やっ…まだ、だめ」
「どうして」
「だって…!ふ、あぁっ」
悪戯な指が、感じて固くなってしまっている桜太のものを握り込んだ。それだけでもう、びくびく震えだしてしまう身体。
桜太は自分の快楽を恥じるように、下を向いてしまった。
こういう桜太の恥じらいは、本当に可愛いのだが。時雨の手技に溺れていくと、一変して淫らな表情に蕩けていく。そのさまがまた、時雨にはたまらないのだ。
「今日帰ってきたら、それはそれで疲れてるだろうから、思い切り可愛がってやることが出来ないだろう?」
「ああ、んっ…や、ぁ」
首を振るのは、やめて欲しいからなのか、それとも自分は大丈夫だからちゃんとしてくれと言いたいのか。
もはや言葉には、ならないけど。
「いっそ行かないでくれたらいいなあと。そう思ったんだよねえ…」
くすっと笑った時雨は、桜太の身体を押し倒した。
小指を絡めたままの手を、桜太の頭の上に押さえつけて。手早く襟を剥ぐと、ぷっくり頭を上げている胸に、吸い付いてしまう。
握りこんでいるものをゆるゆると上下に撫でながら、時雨は桜太を見つめていた。
確かな刺激を与えてもらえず、もどかしげに眉を寄せる桜太。小さな膝頭が、意図しないまま時雨の腕に擦り寄ってくる。
欲しがる身体と、躊躇う心に揺れて、大きな瞳が潤み、時雨を映し出す。
甘い喘ぎにまぎれた、苦しげな息遣いが時雨を煽るのだ。
「ね、桜太」
桜太の手が戸惑いがちに着物を掴んだところで、時雨が囁いた。
「あっ、あ…んっ!や、ぁ」
「どうだい、疲れてるかい?もう休む?」
意地悪な問いかけ。
一日中歩き回った桜太は、確かに疲れていたけど。でももう、そんなことは言えなくて。
空いた手を伸ばし、時雨の髪に触れる。
桜太は泣きながら首を振って、時雨の身体を引き寄せた。
<了>