【ストーリー概要B】


■ 息子と桜太[1]

言われた通り、桜太は頑張っていた。
と言っても、ずっと家事全般をこなしてきた桜太は仕事を覚えるのが早い。しかも愛想がよく人懐っこいので、あっという間に使用人たちにも家のものにも好かれていた。
しかし、一人になればとてつもなく寂しくて。夜中一人で泣いているところを、息子に発見される。まさか預けられるとは思わなかったこと、ずっと時雨と居られると思っていたこと。話を聞いてくれた息子はため息をつき「そうだね」と何事かに納得した様子で笑った。
「確かにあの人には、君みたいな子が必要なのかも」
父の傍にいたいなら、そうすればいい。息子が背中を押してくれる。
「後のことは引き受けてあげるよ。みんなにも、話しておくから。……でも、いいかい?どうしても耐えられなくなったら、ここへ戻っておいで。お兄さんのところまで、送っていってあげるから。ね?」
そう言われ、桜太は夜の町を駆け出した。

(オイシイです、息子さん)



■ 時雨と桜太[1]

女のところでぼーっとしていた時雨は、突然現れた桜太に驚きを隠せない。自分の居場所は息子に聞いたというが、またどうして自分のところへ?
仕事が辛かったか?誰かに苛められたか?尋ねてみるが、桜太は泣いて首を振るばかり。困惑する時雨に抱きついて、桜太は「会いたかった」と切ない声で訴えた。
そうして、ずっと時雨の傍に居たくて町に出てきたのだと言い出す。手が震えたから。可愛がって欲しいって思ったから。誰より時雨が大事だから。
思わぬことを言われた時雨は、勘違いだと諭すのだが、桜太は悲しげな顔で「どうして信じてくれないの?」と切なく訴えた。
時雨としても、こんなにも懸命な手を伸ばされたのは、本当に久々で。どうにも離せなくなり「もう遅いから」と自分に言い訳しつつ、桜太を泊めてやる。

(言い訳の自覚はあるんですね、時雨さん)



■ 時雨と桜太[2]

桜太は、むくれて、拗ねて、部屋の隅に蹲っている。そんな桜太を心配して時雨を責めるのは、どういうわけか共に原因を作ったはずの女だ。
桜太が時雨の元に来た翌日から、何度も「引き取れ」と息子に訴えるが、息子は聞き入れようとしない。なら桜太のほうに勘違いをわからせてやろうと、目の前で女といちゃついたりしてみるのだが、桜太は拗ねはするものの全く離れようとしない。
しかもそうしてダシに使った女たちは皆、桜太を気に入り時雨を責めるようになる。「どいつもこいつも…」うんざりする時雨。
しかし時雨自身、桜太が人に好かれる理由がわかっていた。
わかるからこそ、辛い。手離せなくなる前に、別れてしまいたい。
共に暮らせない息子と、二度と抱きしめられない妻。自分が桜太に彼らの代わりをさせようとしていることは、わかっている。

(オトナは大変ですね、時雨さん)