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テーブルに広げていた仕事の資料や、ノートパソコンを片付けて、惺は泰成から送られてきた荷物を引き寄せた。
送り状に書かれた見覚えのある丁寧な文字。それは送り主である笠原(カサハラ)泰成ではなく、彼の家令、来栖秀彬(クルスヒデアキ)のものだ。
繊細に綴られた発送元の住所。並んだアルファベットに古い記憶を揺さぶられて、惺は少しの間手を止めた。
運命を受け入れてからのこの十年で、色んなことが変わっている。
学生だった直人は自分の進む道を見つけて、昔の彼からは想像も出来なかった肩書きを手に入れた。
少年が「弁護士になりたい」と言い出したときは、周囲の失笑を買ったものだ。
直人がこつこつと結果を積み上げ、努力する性格だと知っている親しい者はけして笑わなかったが、彼の高等部までの成績を知る人間が、それを冗談だと思うのは仕方ない。
法学部への進学、司法試験の突破。
立ちはだかる壁は当時の直人にとってあまりに高く、全てが終わった今だからこそ言えるけど……と前置きして、直人の双子の幼馴染みは「眩暈がした」と笑う。
到底実現不可能だった直人の成績を、実現可能なレベルまで引き上げてくれたのは彼らだ。しかし最初に「勉強を教えて」と頼まれた時は、目標の高さを聞いて本当に驚いたらしい。
―――絶対に結果を出せ。
―――自分で言い出したことでしょ。
二人に叱咤激励されて、確かに直人は頑張った。何度司法試験に落ちても、けして諦めなかった。
大学在学中から受け初め、四度目の司法試験に合格。驚きと賞賛を受ける直人のそばで、惺だけが苦い顔をしていた。
その後に控えていたのは、一年の司法修習期間。
二人にとって初めて、離れ離れの時間が待っていると、わかっていたから。
過去に思いを馳せ、手を止めていた惺は、軽く頭を振って荷物にかかっている紐を解く。
「重いな…何を送ってきたんだアイツは」
見た目の大きさからは想像出来ないほど、ずっしりとした重量。持ち上げることは諦めて、テーブルに置いたまま外装の紙をはずしていく。
この何年かで一番状況が変わったのは、泰成かもしれない。
彼は八十五の誕生日、いきなり日本を離れると言い出した。