【1月ハチミツ-前編】 P:11


 惺の口から指を引き抜くと、物足りなさに細い喉元が震えている。直人は濡れた指をそこへ擦りつけ、耳朶を優しく噛みながら囁いた。

「ま、こんなことしなくても、惺の身体は甘くて美味しいんだけどさ」
「ん…なお、と」
「久しぶりに見たな…惺の酔ってるとこ」

 直人も自分が忙しいのは自覚している。同じ部屋に暮らしていても、ほとんど言葉を交わせない日があるくらいだ。
 惺の喉元に吸い付いた直人は、ふわっと鼻をくすぐった香りに、思わずそこを強く吸った。細い肩からシャツを剥ぎ取るだけでも、理性が理性が崩れ始めている惺は、掠れた声を上げて直人を求めるのだ。

「あ、ぁ…なおと」
「うん」
「も…あぁっ」

 吸い付いたところを舐めて、また惺の唇にハチミツを塗りつけ、それを味わうように口付ける。絡み合う舌に溶け出す蜜が、二人の熱を煽って止まらない。

「ね、惺…甘い?」
「んんっ、や…」
「言ってよ。甘くない?」

 舌がざらざらしてしまうような甘さ。
 いつもと違う味のキスに、惺は腰を揺らせて直人に擦り寄っている。
 もう酒に酔っているのかハチミツの甘さに酔っているのか、惺自身にも判断はつかないだろう。

「あま、い」
「うん。…じゃあ、美味しい?」
「んっ…ぁ」
「ねえ惺…答えて。美味しい?触って欲しいんでしょ…してあげるから、言って」

 耳元で囁かれた言葉に、惺は少しの間、首を振って嫌がっていたのだが。ハチミツの味がする舌を耳に捩じ込まれ、直人の熱い身体を押し付けられているうち、とうとう請われるまま「おいしい」と呟いた。

「ありがと。…好きだよ、惺。愛してる」
「あ、ん…やっ…」
「ちゃんとしてあげるから、身体の力を抜いて楽にしてて。…でも寝ちゃダメだよ」

 子供の頃から面倒を見ている惺と、育ててもらった直人の関係は、恋人同士となった今も変わらない。しかしこうして肌を重ねるときは、微妙にその立場が逆転する。
 惺はけして認めようとしないが、確かに欲しがる気持ちが強いのは惺だ。
 熱を煽られ、欲情を引き出されると、惺は我慢が出来なくなって、直人を求めること以外、何も考えられなくなる。

 勃ち上がっているものを咥えられ、先を強く吸われて、直人の髪を掻き回していた惺は、すぐそこまで迫った絶頂をかわすかのように放り出された。