かつて直人が、自分で痣を切り裂いた傷は、今でも手のひらに残っている。
熱い舌を絡められるより、冷たいハチミツを滴らせるより、互いの痣が重なりその傷を感じることの方が、惺をおかしくするのだ。
右手で腰を撫でられると、痣の上を傷が這い回るようでたまらなくなる。それは直人の深い愛情や、自分たちの絆の強さを、言葉ではないもので囁かれるのと同じなのだから。
切なく甘い媚薬。崩れ去った理性から解き放たれ、惺は床にしがみつくと、腰を上げて直人を欲しがった。
「なおと…なおと、はやく…っ」
「うん。入れるよ」
「あ、あっ…はや、く」
「惺…愛してる」
直人の声が耳に届くのと同時に、熱いものが押し当てられ、惺を貫いた。
「あああっ!」
大きな手に細い腰を強く引き寄せられて、突き上げられるたびに惺は声を上げた。身体は中から押し上げてくる質量に苦しさを訴えるのだが、それこそが直人と繋がっている証拠。
切なくて切なくて、泣きそうになる。終わって欲しくないのか、早く終わらせたいのか、惺自身にもわからない。
「あっあっ、ああっ、あ、んっ」
「惺…せ、い…っ」
男っぽく掠れて、切羽詰った直人の声に名前を呼ばれるようになると、もう何をされても惺には許せてしまうのだ。
与えられる快楽だけで、他には何もいらない。全ての始まりである呪われた痣さえどうでもいい。
直人と一緒にいられるなら、この子を独占していられるなら、閉じた運命が終わらず、また永遠に生きていかなければならなくなったとしても、構わないとさえ。
高く啼いた惺を抱きしめて、直人が中に快楽を解き放った。ハチミツのように蕩けて、でもずっと甘いもの。
荒い息を吐き出しながら、すうっと意識を失っていく惺は、このままで、と祈りを捧げるように、直人の手を強く握り締めていた。