昼近くになってようやく起き出してきた惺は、秀彬から泰成がまだ床についていることを聞かされ、青くなった。手紙に書かれていた泰成の倒れた話は、大げさなことではないらしい。
しかし心配のあまり動揺する惺に、昨日はしゃぎ過ぎたんですよ、と秀彬が微笑んでくれる。
体調は安定している、心配することはないと説明され、ほっとした惺に、秀彬は少し付き合ってもらえないかと願い出た。
もちろん断る理由もない。
惺は誘われるまま秀彬と庭へ出て、彼が育てている花に鋏を入れているのを見つめる。たわいない話をしながら、そのまま二人で屋敷の裏へ歩いた。
岬の先端に伸びる、屋敷の裏。
そこは代々、ここに住んでいた者たちの墓所となっている。
一番手前のまだ新しいものが、エマの眠る墓。秀彬はそこへ、庭で切って来た花を半分だけ手向けた。
残りはどうするんだ?と訝しがる惺に、秀彬は黙って微笑むだけ。
奥へ奥へと歩いていく秀彬の後ろをついて歩く惺はしばらくして、もう刻まれた字も読めないほど古くなった墓へ導かれた。
「ここ、は…!」
かつて惺が愛し、しかし運命を共にすることのなかった女性の墓。彼女の胸元にハッキリと刻まれた星型の痣を、まだ覚えている。
秀彬は手にしていた花を惺に握らせた。
「惺様は屋敷をエマさんに譲られてから、一度もこの場所へお越しになっていないでしょう?昔、四人でこの屋敷にたどり着いたときも。貴方様はけして、ここへ近づこうとしなかった」
「………」
「エマさんと泰成様はずっと調べていらっしゃいました。ここに眠る方のことを」
「二人は全部知っていたのか…」
惺の視線はその墓から動かない。
一度は朽ち果てたはずの墓。今は手入れが行き届き、周囲の草もきれいに刈られている。
「…秀彬が手入れを?」
「あまり行き届いておりませんが」
「そんなことはないよ…ありがとう」
じっとその墓の前から動かない惺に黙って頭を下げ、来栖は静かに屋敷へ引き返していく。