「なお…なおとっ」
二人で住む部屋を飛び出してから、一人で考えていたことが、感情をかき乱していた。詰め込んで詰め込んで、ぱんぱんになっていた気持ちが、とめどなく溢れ出てくる。
唐突な惺の行動に驚いている直人の膝に乗り上がり、唇を寄せた。
「愛してる…」
「惺」
「愛してるんだ…言えなかった、今まで、どうしても。でも…直人」
「うん…ありがと」
「なお、と…なおと…」
「愛してるよ、惺。帰ってきてくれて嬉しい。…惺の言葉もね、すごい幸せ」
「…っ」
「いいよ、おいで。誰も見てないから」
抱きしめる直人の腕に甘えて、惺は唇を重ねた。待っていられなくて自分から舌を差し入れ、直人の髪をかき混ぜる。
応えてくれる直人に舌を絡めている間、惺は自分を覆っているものがひとつひとつ剥がれていくのを感じていた。
弟たちを巻き込んだ、呪い。
黒い痣を刻まれ、長い時間に縛られていた。全ては自分のせいだと傲慢に思い込んだために、弟たちを傷つけた自分。
弟たちが離れて行った後も「兄」でいなければと、自分を律していたもの。
直人を運命の人だと認めたのに拭えなかった、かつて愛した人への後悔。
愛されたくなんかなかった。
誰かに責められ続けていたかった。
弟たちは終わらない命に、どれほど苦しんだだろう。かつて愛した女性は、孤独の中でどんなに傷ついたか。
全ては愚かな自分のせい。
何年も、何年も。
ずっとずっと終わらない罰。
苦しんでいる間だけ、許されているような錯覚に、惺は甘えていたのだ。
でもそんな痛みの全てを、誰より惺を理解してくれた男が、引き受けようと笑ってくれた。
愚かで傲慢な惺を、いつまでだって愛し続けると、直人が言ってくれる。
息を継いでは何度も重ねた唇を離し、直人を見つめる。
惺の瞳から涙が零れ落ちた。
「…惺…」
「くる、し…」
「うん」
「も…しあわせに、なりたい…」
ぼろぼろ泣きながら吐き出した弱音を聞いて、直人が優しく笑う。
「いいよ、惺」
「なお、と」
「幸せにしてあげるよ…どうしたらいい?何をしたら、惺は幸せになるの」
緩く首を振って、それでも惺は直人に抱きついた。背中を撫でてくれる大きな手。この人に出会うため、自分は生きてきたのだ。……信じる。絶対のもの。