【1月ハチミツ-後編】 P:08


 気休めに倒されたシートを元に戻し、衝立のように後部席を遮らせた直人は、一度車から降りて、ネクタイと上着を脱ぐ。
 それを運転席に置き、後部席のドアを開けると、薄暗いシートの奥で、惺がとっくに一糸纏わぬ姿になっていた。
 真冬だというのに、エンジンすらかかっていない車内で、よくもそんな潔く服が脱げたものだ。

「惺…寒くないの?」
「お前がいるから平気」
「も〜…そういう問題じゃないと思うんだけどなあ」
「ほら、早く来い」
「…何その男らしい態度」

 さっきまでぼろぼろに泣いて、直人に取り縋っていた惺は、一体どこへ行ってしまったのか。片膝を立てて手招きしている恋人の姿に溜め息を吐きながら、直人も後部席へ乗り込みドアを閉める。
 その瞬間、惺に腕を引っ張られて、直人は細い身体の上に倒れこんでいた。
 
 
 
 
 
「あ…ぁ、ああっ…っと、おく」
「惺、ダメだって。まだ辛いだろ」
「やっ…!もっと奥へ、なおっ」
「痛いくせに何言ってんの…ほら、身体上げて」

 直人の上にいる惺は、痛みで涙が止まらないくせに、より深く繋がろうと身体を押しつけてくる。支えていた腰を強く掴み、直人は少し身体を引こうとするが、惺がそれを許さない。
 髪をかき乱し首を振って、力の入らない指先で、なおしがみつくのだ。

 自覚しているかどうかわからないが、惺はどうにも、痛みを伴なうことの方が、より快楽を感じるようで。べたべたに甘やかしたい直人を、いつも少しだけ不安にさせる。直人としても、自分の意地悪で困っている惺の顔は好きだが、痛い思いをさせるのは嫌なのだ。
 しかしそうやって、自分のしたいことを直人に強要している惺は結局、甘えているだけなのだが。若い直人がそれを理解するには、まだもうしばらく時間が必要かもしれない。

 仕方なく直人は、惺の望むまま細い身体を突き上げる。冷たい指先が白くなるほど直人のシャツを握り、惺は悲鳴を上げた。

「ひ、あああっ!」
「っ…惺、大丈夫?」
「なおと、いいっ…あ、ああ」
「愛してるよ」
「ん、ぁ…あっ…ぼく、も…なお」
「うん」
「あっ…あ、あぅ…っ」

 苦しげに眉を寄せる惺を見つめながら、直人は何度も何度も深く惺を突き上げた。