【1月ハチミツ-後編】 P:11


 
 
 
 
 
 正直、その後は大変で。
 際限なく欲しがる惺を何とか宥めた直人には、空港から二時間以上かかるドライブが待っていた。

 汚れたシートや、寒さを考えれば窓を開けるわけにもいかない車内に、充満する情事の残り香。それらを気にしつつ、直人は何とか冷静に、ハンドルを握ったのだ。
 惺はというと、身体の始末を全部直人に任せ、後部座席で幸せそうに寝息を立てるばかり。
 愛しい人が座るはずの助手席に、仕事の鞄とコートだけを置き、溜め息を繰り返す直人は、なんとか無事に自宅のマンションまでたどり着く。
 起きようとしない惺を抱き上げて部屋まで運び、長旅とセックスの疲れに目覚めそうもない彼をベッドへ寝かせた。

 惺が無事に帰国したことを国際電話で泰成に報告。持ち帰った仕事の書類作成。
 ほんとに愛されてんのかな、と寂しく考えながらリビングで仕事をする直人のもとに、惺が起き出してくることはなく。
 結局は直人もそのまま寝込んでしまって朝を迎えた。

 怒涛の一日に、若い直人ですら疲れが消えない。
 ふりそそぐ太陽の光が、目に痛い朝。

 このまま仕事に出るなんて、大丈夫なのかと。自問を繰り返しながら、直人は惺の眠る部屋に入り、カーテンを開く。

「ねえ、惺。起きてる?」

 声を掛けながらベッドに近づくと、布団に包まった惺が苦しそうに咳き込んだ。

「惺?」
「なお…と」

 掠れた声。朝からそんな色っぽい声を聞くのは初めてだな、と。苦笑を浮かべる直人がベッドへ腰掛けると、惺は布団の中から僅かに赤い顔を覗かせる。

「おはよ。起きられる?」
「…頭が痛い」
「あんなとこで調子に乗るからだよ。まだまだ寒いのに…ほら、こっち向いて」

 赤い顔に手をあててみる。体温の低い惺には考えられないくらいの熱さだ。

「熱があるね…ちょっと高いかな」
「なんだ、これ」
「だから調子に乗ったせいだよ。エンジンもつけてなかったのに裸になるんだから…喉、痛い?」
「…いたい…気がする。でもそれより、寒い」
「じゃあ、まだ熱が上がるね。今日は一日ゆっくり寝てなよ」
「…なんで僕だけ」

 ムッとした顔の惺が少し子供っぽく見えて、直人は笑い出す。

「風邪ひいて当然でしょ?俺、脱いでなかったもん。ほんと、ああいうことには後先考えないんだから」

 何気ない、直人の言葉。
 惺は驚きに目を見開いた。

 ―――風邪?…誰が?