正直、その後は大変で。
際限なく欲しがる惺を何とか宥めた直人には、空港から二時間以上かかるドライブが待っていた。
汚れたシートや、寒さを考えれば窓を開けるわけにもいかない車内に、充満する情事の残り香。それらを気にしつつ、直人は何とか冷静に、ハンドルを握ったのだ。
惺はというと、身体の始末を全部直人に任せ、後部座席で幸せそうに寝息を立てるばかり。
愛しい人が座るはずの助手席に、仕事の鞄とコートだけを置き、溜め息を繰り返す直人は、なんとか無事に自宅のマンションまでたどり着く。
起きようとしない惺を抱き上げて部屋まで運び、長旅とセックスの疲れに目覚めそうもない彼をベッドへ寝かせた。
惺が無事に帰国したことを国際電話で泰成に報告。持ち帰った仕事の書類作成。
ほんとに愛されてんのかな、と寂しく考えながらリビングで仕事をする直人のもとに、惺が起き出してくることはなく。
結局は直人もそのまま寝込んでしまって朝を迎えた。
怒涛の一日に、若い直人ですら疲れが消えない。
ふりそそぐ太陽の光が、目に痛い朝。
このまま仕事に出るなんて、大丈夫なのかと。自問を繰り返しながら、直人は惺の眠る部屋に入り、カーテンを開く。
「ねえ、惺。起きてる?」
声を掛けながらベッドに近づくと、布団に包まった惺が苦しそうに咳き込んだ。
「惺?」
「なお…と」
掠れた声。朝からそんな色っぽい声を聞くのは初めてだな、と。苦笑を浮かべる直人がベッドへ腰掛けると、惺は布団の中から僅かに赤い顔を覗かせる。
「おはよ。起きられる?」
「…頭が痛い」
「あんなとこで調子に乗るからだよ。まだまだ寒いのに…ほら、こっち向いて」
赤い顔に手をあててみる。体温の低い惺には考えられないくらいの熱さだ。
「熱があるね…ちょっと高いかな」
「なんだ、これ」
「だから調子に乗ったせいだよ。エンジンもつけてなかったのに裸になるんだから…喉、痛い?」
「…いたい…気がする。でもそれより、寒い」
「じゃあ、まだ熱が上がるね。今日は一日ゆっくり寝てなよ」
「…なんで僕だけ」
ムッとした顔の惺が少し子供っぽく見えて、直人は笑い出す。
「風邪ひいて当然でしょ?俺、脱いでなかったもん。ほんと、ああいうことには後先考えないんだから」
何気ない、直人の言葉。
惺は驚きに目を見開いた。
―――風邪?…誰が?