【君が待っているから@】 P:02


 ほんとだよ。俺も二人に引っ張り込まれて、生徒会の役員やってるから。そんな二人の様子は、よく見てる。
 双子ってみんな、こんな性格の違うものなのかな?俺は二人以外の双子と会ったことがないので、よくわからないけど。テレビに出てる双子の人とか見てると、ナツアキがちょっと特殊な気もする。

 体つきだって、ナツは締まったスポーツマンタイプで、アキはもっと柔らかい感じ。でも二人は身長も体重も、体脂肪率まで同じなんだって。
 外見は確かに似てるけど、いまだに間違う人がいるのが俺には信じられない。だって二人はそれぞれ、気質のわかる雰囲気をしてるし。同じ形の目でも、ナツは気が強そうで、アキは優しそう。
 ……まあ、前に一度ナツがふざけてアキのフリしてたときは、俺も騙されたけどね。
 アレたぶん、逆だったら無理だと思うな。アキがナツのフリするの。見たことはないけど、たぶんアキだってわかる。

「なんの話、してたの…?」
 躊躇いがちに俺が聞いたら、ナツは肩を竦めながら「文化祭のハナシ!」って。咥えたストローをゆらゆらさせながら、器用に答えてくれた。
「ああ、嶺華祭の…。もうそんなハナシすんの?まだ体育祭終わって、そんな経ってないじゃん」
 うちは幼稚舎から大学部までのエスカレーター式だから、秋になっても受験勉強とかあんまり関係ない。
 内部進学の審査テストは三年の春で、二人も大学部への進学が決まってる。だから他の学校よりこの時期でもゆっくりしてて、文化祭に当たる嶺華祭なんか、年明けの一月にやるんだ。
 まあその分、生徒に金持ち多いのと、中等部と高等部が合同でやるから、派手だけどね。
「今くらいから動いておかないと、後で大変なことになるからね」
「お前、去年は一年だし楽なことしか回さなかったけど、今年は覚悟してろよ」
「ちゃんと仕事は教えるから、ナオも手伝ってね」
「つーか、生徒会にはヒマ出来る人間なんかいないって、わからせてやるから。走り回れ。オレ様のために」
「ナツの為の嶺華祭じゃないでしょ?」
「オレが仕切るんだからイイじゃん」
「ほんとに何でも面白がるんだから」
「んなコト言って、アキだって好きだろ?面白いこと」
 俺は首を傾げてしまった。去年もナツは生徒会長だったし、嶺華祭を仕切ってたけど、なんか今年の方がはしゃいでるみたいに見える。
「…なんでナツ、今年はそんなテンション上がってんの?」
 不思議がる俺に、アキは
柔らかく笑って教えてくれた。
「あのね、ナオ。今年はおじい様がいらっしゃるんだって」
「じいちゃん来るのに、情けないとこ見せらんないだろ?」
「ああ…そうなんだ。じいサマが…」
 それなら、納得だ。
 だって二人とも、笠原のじいサマが大好きなんだもん。

 笠原って、知ってるかな。けっこう有名な金持ちの家。証券会社とか、デパートとかさ。聞いたことない?あれ全部、この二人のじいサマが持ってたの。今は隠居してるけどね。
 二人のじいサマ、笠原泰成(タイセイ)は、俺にとっても大切なひと。
 俺は自分のおじいちゃんとか、おばあちゃんとかを知らないから、俺にとってじいサマと呼べるのは笠原泰成だけ。
 じいサマは昔、兜町の悪魔って呼ばれてたんだってさ。投資の鬼だとか。
 旧財閥で、それでなくても昔っから金持ちの笠原家の資産を、倍にした伝説の人だとか言われてる。
 ……実のところ俺は、それがどんな凄いことなのか、よくわかんないんだ。俺にとってのじいサマは、ちょっと意地悪で面白い、ただのじいサマだし。

 じいサマは今年、八十を迎える。
 今でも精力的で好奇心旺盛だけど、さすがにもうあんまり出掛けたりとかはしなくなってるんだ。
 そのじいサマがわざわざ見に来てくれるってんだから、そりゃナツのテンションも上がるよね。
「そっかあ…じいサマ、見に来るんだ」
「そ。だからお前も気合入れろよな」
「気合って言われても…」
 どうしていいか、わかんないよ。
 俺ってほんと、言われたことをやることぐらいしか出来ないんだもん。そんなことナツも知ってるはずなのに。
 なんか……ナツってほんと、そういう言い方するとこが
ちょっと意地悪で、じいサマに似てるんだよな。

 ナツのこの行儀悪い態度見てたら、全然そんな風には見えないかもしれないけど。これでいてナツとアキは、笠原泰成直系の孫なんだよ。
 じいサマも同じ顔なのに性格が違ってて、でもそれぞれに前向きな二人のことを、すごい可愛がってるんだ。
 ただなんか、ナツとアキは遺産とか相続とか、そういう問題とは縁遠いところに生まれてるんだって。詳しいことは、よく知らないんだけど。