ナツの言葉は、すごく意味深だ。
俺がナツアキを好きな気持ちと、惺を好きな気持ちは、全然違うものだけど。ナツはそれをちゃんとわかって、話してる。
俺はちょっと、頬が熱くなってきた。
「……気づいてたんだ」
「当然。オレらの付き合いも長いしな」
一度も言ったことがないのに。
ちらっとアキの顔を見たら、アキがなんか複雑な顔してて、二人とも俺の気持ちを知ってるんだって、わかってしまった。
「…俺、変だよね?」
「変じゃないよ」
アキが即行で否定してくれる。やっぱアキにもバレてんだ。
「でもさ…」
「変なんかじゃないよ。ナオそんなこと気にしてるの?」
「変かどうかなんて、世間が決めることだろ。お前が気にしてどうする」
二人に慰められて、もう本気で泣きたくなってくる。
俺ね、惺が好きなんだ。
親代わりだからでも、感謝してるからでもなくて。
惺のことを考えるだけで苦しくなるぐらい、好きなんだよ。
アキが肩を撫でてくれて、ナツが俺の髪をくしゃって掻き混ぜてくれる。二人が慰めてくれるときの癖だ。
そしたらもうなんか、ぎゅって閉じ込めてた気持ちが、溢れてきて。思わず弱音を吐いてしまった。
「惺はさ、普段全然笑わないのに、じいサマと話してるときは、時々すごい楽しそうに笑うんだよ」
「まあな」
「じいサマと惺は、俺より長い付き合いんだから、しょうがないってわかってるんだけど…」
自分が見当違いなことで、やきもち焼いてるのはわかってる。
でも惺とじいサマはすごい仲良くて、いつもなんだか不機嫌そうに表情を変えない惺が、唯一笑って話すのがじいサマなんだ。親子以上に年が離れてるのに、二人はまるで親友みたいに話すんだよ。
そんな二人の姿を見てるのが、子供の頃は疎外感を感じて、少し寂しかった。
……今は、すごく辛い。
じいサマが特別だって言われているようで、俺なんかじゃ惺のことはわからないんだって言われてるみたいで。二人を見てると無性に悲しくなる。
「だからナオは最近、おじい様に会わないようにしてるの?」
「だって…」
「気持ちは、わからないでもないけど。でもおじい様はナオに会いたがっていらっしゃるよ?」
「別にいいんじゃねえの」
「ナツ?」
「直人の思うようにすりゃいいんだ。じいちゃんだって、マジに会いたかったら直接来いって言うだろ。誰かの望みなんかお前には関係ない。…お前はどうしたいんだ?」
グラスをからから回してるナツは、視線を上げずにそう聞いてくれた。
どうしたいって聞かれても。
「…あの…今年って惺に会ってから、ちょうど十年目なんだ…」
「そうだね」
「あと一ヶ月ちょとなんだよ…その日」
死にかけてた俺が、惺に助けてもらった日。俺が惺に会って生まれ変わった日だ。
だからってわけじゃないけど、でも何かきっかけがないと、俺は動けないから。
「…けっこう勇気あるよな、お前」
俺の言いたいことを悟って、ナツが呟いた。
「ないよ、そんなの」
顔をあげてナツを見たら、その口元には大人っぽい、でも自嘲的な笑みが浮かんでた。
「ちゃんと、聞いてもらえるといいな」
「うん」
とりあえずは、そこからだよね。
驚かせると思うけど。
いつも厳しくて冷たい態度の惺は、それでも今までちゃんと、俺の話に耳を傾けてくれたから。
だから、聞いてくれるだけでもいい。
そう思ってるんだ。