【君が待っているからC】 P:03


 中等部に上がってから、ずっと一緒に食べてたお昼ご飯。クラスメイトと食べるからなんていう、今更な言い訳をして、別行動してた俺のこと、不審に思ってただろうし。バイト先の店には嶺華生も来るしね。
 たぶんお客さんの誰かから、バイトの件はナツアキの耳に入っちゃうだろうなって、思ってた。

 二人に連れて行かれた先は、生徒会室。
 さすがにもう授業が始まるって時間の昼休みに、人の姿はない。
 中へ入ったら、俺は腕を引っ張ってたナツに奥のソファーへ突き飛ばされた。アキが律儀に鍵を閉めて、追いかけてくる。
「えっと…ごめんね?」
 先手必勝とばかりに、一人でソファーから二人を見上げることになった俺は、謝ったんだけど。そんなことで二人が許してくれるわけがないのも、わかってた。
「何でオレらがお前を連れてきたか、わかってんだろうな?」
「うん…バイトのことでしょ?」
「何かお金の必要なことがあるの?」
 アキに尋ねられて、俺は苦笑いを浮かべてしまう。
「大したことじゃないよ」
「だったら何でオレらに黙ってんだよ?コソコソしてんの、おかしいだろうが」
「だって…自分の力で、なんとかしたかったんだ」
 俺は一人で生まれてきたんだから。惺から離れて一人で生きてかなきゃいけないんだって、自覚したんだから。
 でもナツは眉を寄せて、俺を睨んだ。
「ガキが生意気なこと言うんじゃねえよ」
「ガキったって、同い年じゃん」
「そうだよ。僕たちとナオは同い年で、同じように子供じゃない。僕たちはちゃんと自覚してるつもりだけど?」
「でもほら、世間では十八歳で働いてるなんて、普通のことだよ」
「世間の話なんかしてねえんだよ!」
「そんな、怒んないでよナツ…」
 怒鳴るナツに肩を竦めて見せたけど。どうにも逆鱗に触れちゃったみたいで、ばんっ!て机を叩かれた。
「お前…オレらのこと、ナメてんだろう?」
「ナツ…?」
 黙ってバイトを始めたことは、そんなに怒らせるようなことなのかな。でもナツは勘違いすんなって、すごい苛立たしそうに俺を見てるんだ。
「バイトぐらい直人がしたけりゃ、勝手にすりゃあいいさ。昼飯だって、どこで食ってたって構わねえよ。…食ってんならな」
 そう言われて、俺はちょっと青ざめてしまった。バレてるのは、バイトのことだけだと思ってたのに。
「あ……」
「食べてないんでしょ」
「あの」
「ここのところ、ずっと食べてないよね?放課後に生徒会来て、生徒会のない日はバイトして。なのに食べてないんでしょ?」
「お前ほんと、ガキの頃から変わらねえよな。何か悩むことがあると、すぐ食えなくなる」
 言い当てられた俺は、思わず下を向いてしまう。昼ごはん、食べてないのは本当だけど、それは誰にも言ってないし知られてないと思ってた。
「ごめん…」
「オレらに謝ってどうするよ」
「身体は大丈夫なの?…どこも悪くしてない?」
 ため息をついたアキは、そっと隣に座って頭を撫でてくれた。
「大丈夫…抜いてるの、昼だけだから…」
「ばぁか。今のお前には、それだけでもキツイだろうが」
 むっとしたナツの顔。こういう不機嫌な顔は、めちゃくちゃ心配してる証拠。
 学校でもバイト先でも動きっぱなしで、普段の俺なら一日三食食べてても足りないところなんだけど。今の俺は、一日二食でも胃もたれしそうな状態なんだ。
「ナオがバイトしてるのはね、少し前から聞いてたよ。確かに心配したけど、黙ってるなら理由があるんだって思ったし、僕たちは寂しいと思ったけど…でもナオが話してくれるまで待とうって、思ってた」
「…うん」
「それでもね、食べてないなんて聞いたら話は別だよ?」
 やっぱり俺は、馬鹿だ。じいサマに愚かだって言われても仕方ない。
 バイトしてることが二人にバレても、適当に欲しいものがあるとか言って、誤魔化しておけばいいと思ってた。水臭いとは言われるだろうけど、でも二人が笑ってくれると思ってた。
 全部知ってて、それでも黙って見守っててくれた二人に甘えてたんだ。
「今日も昼メシ、食ってないのか?」
「…うん」
「朝ぐらいはちゃんと毎日、食ってんだろうな?」
「うん、朝は食べてる…夜も食べてるよ」
 だって惺が心配するかもしれないって、思うから。
「ここにも何かあると思うけど、食べられる?」
 生徒会室に置いてある、菓子パンとかのことを言ってるって、わかってたけど。尋ねてくれるアキに、俺は首を振った。
「…ごめんなさい」
 どうしても喉を通らないんだ。
 自分でもマズいって思ってるんだけど、でも惺が作ったもの以外は、食べられそうにない。
「無理はしなくていいよ」
「…うん」
「身体は?何ともねえのかよ」
「うん、大丈夫」
「まったく…そんなんで大人振るんじゃねえよお前は」