【君が待っているからC】 P:06


「最初から話がおかしいんだ。お前と惺さんは、偶然出会ったにしてはあまりにも出来すぎてる」
「ナオ確か昔、惺さんと初めて会った時に、自分の名前を呼んでくれたって、言ってたよね?その時のことからもう、辻褄が合ってないよ」
「じいちゃんだって、直人が現れるまでずっと惺さんのこと隠してただろ?いまだに誰もあの二人の関係、知らないんだぜ」
「ナオの知らない何かが、絶対にあるはずなんだよ」
 俺の知らない、何かって…だからそれは何?俺なんか、知らないことだらけだよ。
 首を傾げてる俺に向かって、ナツはいきなり結論を口にした。
「お前さ、今からじいちゃんとこ行って、聞いて来いよ」
「え?!そ、そんなっ」
 無理だよ!何言ってんの!!
「おじい様に聞かなきゃ、何も解決しないよ。行っておいで」
 アキまで……怖いこと言わないでよ。
「ちょ、ちょっと待って。だって俺、こないだじいサマのこと、怒らせたばっかりなんだよ?会えないってば…浅はかで愚かだとまで言われたのに」
「ほら、な?オカシイじゃん」
「…どこが」
 いじけた上目遣いでナツを見上げる。
 じいサマの言う通り、俺は相当浅はかでかなり愚かだと思うんだけど?
 でもナツは何かを確信したみたいで、やけにさっぱりした表情になってた。
「自慢じゃないけどな。十人以上いる孫の中で、一番可愛がられてるのってオレとアキなんだぜ?そのオレらと、同じくらい可愛がられてただろ、お前」
「おじい様がね、自分から何かのゲームを教えるのは、相当のお気に入りって証拠なんだよ」
「オレらと一緒に教えてもらったじゃん?チェスとポーカー。しかも相手は自分で渡したお年玉、自分で巻き上げちまうようなジジイなんだぞ?」
「…あんまり信用しない方がいいと思うんだよね」
「あの人は、ガキをからかって遊ぶのが、何より楽しいんだからな」
 それは確かに……そうだけど。
 だからって。
「あの状況で、俺をからかったり…するかな?じいサマ」
「するよ。おじい様なら」
「つーか凹んでるお前見てると、オレでも何か余計なこと言いたくなる」
「ナツ…あんまりだよ」
 酷いなあ。
 拗ねる俺を見てにやりと笑ったナツは、つかつか歩み寄ってきて、強引に俺のこと立ち上がらせた。
「ほら立て。善は急ぐっ」
「えええ…マジで行くの?今から?」
「そうだよ。それもナオ一人で行くんだからね」
「うそっ…ナツとアキは?!一緒に行ってくんないの?!」
 そんなっ!じいサマと対等に渡り合うなんて、俺に出来るはずないよ。
 でももう足を止めてくれないナツは、俺の腕をぐいぐい引っ張って行っちゃうし、アキも全然ナツを止める気、ないみたい。
「あのじいサマに対抗するなんて、俺には出来ないってば」
「出来なくてもやるんだよ」
「ナオは惺さんの為なら何でも出来るって言ったでしょ。あの言葉は嘘なの?」
「嘘じゃないけど…」
 惺のためなら俺は、どんな辛いことでも耐えるけどさ。それでも能力的に出来ないことは、無理だと思うんだよ。
 ぐずぐず言う俺を連れて校舎から出た二人は、適当なタクシーを捕まえて俺を押し込んでしまった。
「山の手の笠原邸、わかりますか?そこまで大至急でお願いします。お金は笠原の人間が払いますから」
 運転手さんにアキが伝えてる間、ナツは一度押し込んだ俺の胸倉を窓から掴んで、ぐっと自分の方へ引き寄せた。
「いいか直人。何を聞かされてどんな結果になっても、オレたちはお前の味方だ。じいちゃんでも惺さんでもなく、お前の味方なんだ。お前にはオレたちがついてるってこと、忘れんな」
「ナツ…」
「泣き喚いてもいいから、思ってることをはっきり伝えろ。誰かを怒らせたくないとか、知ることが怖いとか考えるな」
「全部教えてもらわなきゃ、どうするべきかなんて、わからないんだからね」
「聞かされた真実がお前のキャパ越えてて、どうしていいかわからなくなったら、絶対に連絡して来いよ」
「一緒に考えてあげるから、一人で泣いたり悩んだりしないこと。いいね?」
 二人は一切笑みを見せず、痛いくらいの真剣さで俺を見てる。車の中から二人を見つめてて、俺も覚悟を決めなきゃって思ったんだ。
 ナツとアキが支えてくれるんだから、絶対に大丈夫だって。だんだんそう思えてくる。俺は惺が好きだって気持ちだけ、今は考えてればいいんだよね。
「…わかった。行ってくる」
「おう」
「鞄は預かっておいてあげるから、心配しなくていいよ」
「うん。…ありがとう」
 待っててくれた運転手さんに、車を出してくれるよう頼んで、俺は後ろを向いたまま、見送ってくれるナツとアキを見てた。
 途中で運転手さんが「素敵なお友達ですね」って言ってくれて、照れくさかったけど、俺もそう思いますって、答えたんだ。