聞いて教えてくれるなら、どんな小さなことでも聞きたいよ。でも惺は辛そうな顔をしてたし。
俺には当たり前のことだったんだけど。でも惺は驚いた顔になって、それからすごく優しく微笑んだ。
「なるほどね」
「そうだよ。聞いていいなら、いっぱい聞きたいことはあるんだよ?」
「聞けば良かっただろうに」
「聞いてもいいの?」
「今度な」
ほら。やっぱり誤魔化すんじゃん。
「…じゃあ、いつか聞いてもいい?」
むくれながら聞く俺に、惺はちょっと考えるような素振りを見せて「そのうちな」って。答えてくれた。
「…だったら待ってる」
「随分と素直なことだ」
自分で言ったくせに、惺はくすくす笑うんだ。相変わらずの自分に、俺自身も呆れてしまう。
「ほんとだよね〜。俺って小さいときからずっと、惺に嫌われない為なら何でもする子供だったもんね」
「…その割には、押し倒されたりもしたんだがな」
さらりと言われて、思わずかあって赤くなってしまった。惺が俺に押し倒されたことを口にしたのって、初めてだ。
「あの…ごめんね。無理矢理するつもりじゃなかったんだけど、頭に血が上って」
「無理矢理じゃなければ、いつかするつもりだったのか?」
「そ、それは…っ」
「へえ?確かに手馴れたやり方だったな。お前はずっとその時を待ってたのか」
意地悪な声。どんどん赤くなってく俺を見て、惺は笑い出した。
声を立てて笑う惺なんか、見たの初めてで。呆然としてしまってた俺は、惺に口付けられてようやく、本当の惺に出会った気がした。
惺って本当は、けっこう意地悪で、頑固で、我がままなんじゃないの?それって俺に対してだけ?
「なあ、直人」
俺だけに見せる顔なら、どんなこと言われても構わない、とかって思ってて。ちょうどその時に声を掛けられた俺は、見透かされた気がしてまた赤くなってしまう。
「あ、えっと…なに?」
でも惺は、気づいてないみたい。良かった、こんなことで走り回りたいくらい喜んでるの、悟られなくて。
「僕と賭けをしないか」
「…賭け?」
唐突な提案に、俺はきょとんと首を傾げてしまう。惺の口から「賭け」なんて言葉が出てくるの、珍しい。
「そう、賭け」
やたらと楽しそうな顔をしてる惺は、膝でベッドに乗り上がって俺の唇を塞いだ。
訳もわからずされていたキスとは全然違う、濃厚な唇。
俺の頭を抱え込んで、貪るように舌を差し入れてくる。惺の背中を抱き寄せて、与えられる熱を受け入れた。
ぬめる惺の舌が口腔を舐めまわしてる。飢える何かを探してるみたいに、俺の髪を掻き回して、惺は俺を求めてくれた。
「せ、い」
「んっ…ん、ぁ…ふ…んんっ」
何度も角度を変え、息をついで。
ずっとそうしていたいようにも思ったけど、でも名残りを惜しむみたいに俺の唇をついばんでいた惺は、しばらくして離れていってしまった。
俺の頭を抱えて、見下ろしてる惺の瞳。熱っぽく潤んだそれは、すごく綺麗で、すごく艶めかしい色をしてる。
「僕の痣が消える条件は、泰成に聞いたんだろう?」
「うん。…その、同じ形の痣を持ってる俺と、千夜を共にするって…」
口にすると、改めて照れてしまう。
だってさ、それってつまり俺と千回セックスするってことだよね?
赤くなって下を向く俺の頬を、惺の手が包んでくれる。
顔を上げたらそこには、心臓が止まっちゃうんじゃないかってくらい、綺麗に微笑んでる惺がいた。
「…したいか?直人」
「惺?」
「自分の手で、僕の呪いを解きたいか?」
囁くような声で問いかけられた。
どきどきしてた俺は、言葉を理解して驚いたけど。でも力強く頷いたんだ。
「したい」
「…そうか」
「俺が惺の呪いを解きたい。…惺は俺じゃ相応しくないと思うかもしれないけど。でも俺は、惺を好きだって気持ちだけなら、誰にも負けないんだ」
きっぱり言い放った俺を見て、惺は生意気なことをって、ちょっと肩の力を抜いたみたいだ。
苦笑いの表情がどうにも甘くて、胸が震えるの、止まらない。
「ならお前は、その気持ちを賭けなさい。…呪いが解けるまで、僕の心を自分に繋ぎ止めておけたら、お前の勝ち。…性懲りもなく、再び己の罪に溺れて、僕が殻に閉じこもりお前を手放してしまったら…僕の勝ちだ」
そうしたらまた一人に戻って、長い時間を生きていく。
惺はまるで、子供が遊びに誘うみたいな調子で、柔らかい表情のまま賭けを持ちかけた。
それ……つまり、惺は今、俺に心を繋がれてるってこと?
もう自分を傷つけて、誰も要らないんだって背を向けたりしない?
にわかには信じられなかったけど。
でも俺の顔を愛しげに撫でてくれる惺を見つめてたら、かあって身体の中が熱くなってきた。