「昼にしたらノーカウント?」
俺の質問に、惺は呆れた顔をしてる。
だってさ、気になるじゃん。
「千夜ってことは、毎日するとして、単純計算で二年と九ヶ月くらいでしょ?今の惺と俺って、やっぱりどうしても、十歳以上離れてるように見えると思うからさ」
「まあ、そうだろうな」
隣に並んで街を歩くとき、今の惺と俺じゃ、同性だってことを差し引いても、絶対に恋人には見られないと思うんだ。
「せっかくだったら、少しでも年の差が縮まればいいなって思ってるんだけど。惺は早く痣が消えるほうがいい?」
時間をかければ、それだけ惺の解放は遠のいてしまう。
自由になった惺をじいサマに見せてあげたいなら、急いだ方がいいのかも。
でもさあ……それが理由でじいサマが長生きしてくれるなら、急がなくてもいい気がしない?じいサマにはまだまだ、元気でいてもらいたいもん。
「…お前に我慢できるのか?」
「え?…ああ。う〜ん、そうなんだよね」
確かに千夜のゴールを少しでも遠ざけようと思ったら、毎日のようにセックスするわけにはいかなくて。すっかり惺の身体に溺れてる俺には、大変な苦行かもしれないけど。
でもせっかく年の差を縮められるチャンスがあるんだから、頑張って我慢するのもいいかなって思うんだよね。
「…あ。ねえ、入れないで触ってるだけだったら、ノーカウントだったりしないかな?」
口とか手とか。ダメかな?
悩む俺に、惺は苦笑いを浮かべる。そして軽く、俺の頬をつねった。
「真剣な顔で何を言い出すんだか」
「俺は真面目に考えてるよ」
だって一生惺の傍にいるって、決めちゃってるんだから。
「そんなのんびり構えていていいのか?賭けは僕の勝ちになりそうだな」
「負けないもん」
「強気なことを」
「そうだよ。惺が傍にいてくれるなら、俺は何も怖くないし。惺が俺から離れようとしたって、俺の方はもう、惺から離れないって決めたし」
「勝手に決めるなよ」
「仕方ないじゃん、もう決めちゃったんだもん」
絶対に、離れないから。
惺がどこかへ行っちゃっても、今度は俺が絶対に見つけるから。
「ねえ、惺?俺にとって、この痣を消すのは、手段なんだ。惺と一生、楽しく暮らしていくための、通過点」
「直人…」
「俺ねえ…こないだからずっと、痣が消えたその先のことばっかり考えるんだよ。惺と一緒にしたいこと、たくさんあるんだ」
今までは興味なかったけど、旅行にも行ってみたい。あんまり考えてこなかったけど、色んな仕事を見てみたい。
惺と一緒に楽しく生きていくために、必要なこと。いろいろ興味があって、尽きることがないんだよ。
惺の傍には俺の居場所があるって、わかったんだから。
「惺は痣が消えたら、まず何がしたい?」
笑みを浮かべて尋ねる俺を見た惺は、肩を震わせて笑い出した。
「僕にそんなことを聞いたのは、お前が初めてだ」
「そうなの?」
「お前は痣が消える前提で、未来を考えているんだな…」
惺の瞳が僅かに甘い色を見せる。泣いちゃうのかな?って思ったけど、そんなことはなくて。惺はじっと俺を見てた。
「先は長いよ、直人」
「うん」
「ゆっくり考えればいいさ」
「そうだね」
唇を触れ合わせる。
子供同士がする約束みたいな、拙いキスだけど。すごくどきどきした。
唇を離して、見つめ合って。
どちらからでもなく、笑いあう。
すごく幸せで、すごくあったかい気分。
こつって、額をくっつけて。俺は惺の瞳を覗き込んだ。
「…でも、じゃあやっぱり気になる」
「なにが?」
「千夜って、どんな風にカウントすればいいんだろうね?」
話を戻してしまった俺に、惺は楽しげな顔でそうだなって呟いて。一緒に考えてくれる表情になった。
「…そこまで真剣に考えたことはなかったからな…」
ああ……そうだね、惺。
惺は色々、諦めてしまっていたから。
でも今はこうして、自分の運命について考えてる。
俺と一緒に、考えてくれている。
なんだか俺は、ほんとに楽しくなってきて。惺の身体を抱き上げ、自分に乗っけてみた。
繋がってるとこがいきなり深くなったから、惺は自分を襲った突然の衝撃に慄いて、びくんって身体を震わせてる。
「っふ…あ、あっ」
「ねえ惺、試してみよっか?」
「な、に?」
惺を見つめ、脇の下からするっと惺の身体を撫で上げた。
そしたら惺は眉を寄せて、きゅうって、咥え込んでる俺を締め付けたんだ。
「色々試してみるの、嫌?」
首を傾げて聞いてみたら、惺はちょっとだけ頬を赤くして。
「…ばか」
甘い声で呟いて、俺に口付けてくれた。
【了】