【君に逢いたくて〜陸〜】 P:08


 圭吾はいつまでも、同じ柔らかさで肩を叩いていてくれる。それはまるで、親が子供をあやすように。穏やかな彼の鼓動のように。
 このまま眠ってしまいたいくらい安心して、朔は目を閉じていた。そっと細い顎に指をかけた圭吾に導かれ、顔を上げて。誘われるまま、彼と唇を重ねる。
 押し付けて、離して。
 圭吾の目を見つめた。深い色の、優しい光が映りこんでいた。
「この痣が、消えたら…」
「うん?」
「私はあなたと同じように、時を重ねられるようになる。…年老いて、死が訪れる日まで」
 それまで、ほんの少しだけ待っていて。囁きは、圭吾の唇に吸い取られていった。

 誰かの傍で、同じ速度で歩いていく。同じように痛みを分かち合い労わりあう毎日を、充分に命を燃やし尽くすまで生きる。
 どんなにそれを待ちわびていたか、圭吾にはわからないかもしれないけど。朔の言葉に、圭吾は目を細めて笑っていた。
「朔…背中の痣が消えても、その身が自由になっても。…命の火が消えるまで、一緒にいてくれるか?」
 ずっと、一緒に。
 答える代わりに、朔はもう一度圭吾の唇に吸い付いた。静かな声で囁かれた、情熱的な言葉。唇から移された火が、朔の身体を歓喜でざわめかせる。
 圭吾の頭を抱えるようにして唇を押し付けてくる朔に、圭吾は細い身体を抱えなおした。
「朔、舌出しな」
「あ…」
 躊躇って、でもおずおずと言われた通りにする朔の赤い舌を、圭吾は強く吸った。千切れてしまいそうなほど強く吸われて、いっそ食い千切られてしまいたいと、朔は圭吾に身体を押し付ける。
 思わず圭吾の怪我を忘れてしまった朔に、彼は熱っぽい唇を離し、眉を顰めて呻いた。
「っ…!」
「え…あ!ご、ごめんなさい!大丈夫ですか?!圭吾…っ」
「いいって、気にすんな」
「でも…」
「大丈夫だ。…でもまあ、そうだな。いつものようには、してやれねえよな?」
 にやりと。急に意地の悪い笑みを浮かべた圭吾に、言わんとすることがわからず朔は首を傾げている。
「わかんねえか?…俺は出来ねえだろ…だから、な?」
 するっと身体を撫でられて、朔はやっと圭吾の言葉を理解した。彼は怪我をしている。確かにいつもしているような自由は利かず、朔に覆いかぶさることは出来ないだろう。
 耳まで真っ赤になる朔の頬に手をあて、圭吾は楽しげに笑った。
「どうすりゃいい?」
「あの…でも…」
「俺はあんたを抱きてえ。でもこの身体じゃ、どうしようもねえよな?…あんたはどうだい」
 聞かれて、朔は自分の身体を抱きしめた。火をつけられ、震える身体。はしたないくらいに圭吾を欲しがって、疼いている。
「嫌か?」
 問いに、首を振る。
 でもさすがに自分では動けなくて、上目遣いに圭吾を見るけど。彼は肩を竦めていて、許してくれそうにない。
「圭吾…」
「なんだ?」
「っ…!どうしてそう、あなたは意地悪なんですかっ」
「こればっかりは性分だろ。仕方ねえ」
 圭吾の手が朔の衿(えり)を引いて、その中へ入った。何もしなくても尖っている胸を弄られ、朔が甘い溜息を零す。
「ぁ…ん」
「なあ朔…どうする…?」
 朔は何度も唇を舐めて、とうとう身体を浮かせた。見ないで、と小さく呟きながら、圭吾の着物に手をかける。導き出したそれは、もう熱く猛っていて。
「あ…けい、ご」
「上手くなんか、しなくていい。思うようにしな」
「…はい」
 唇が焼けてしまいそうだ。
 大きくなっているものの先に舌を伸ばし、朔はそれを咥えた。朔の髪をかき上げる圭吾が、自分を見ようとしているのはわかっていたけど。彼の昂ぶりに直接触れてしまったら、もう止まらなかった。
「ん…ん、んっ」
 すぼまる頬が、圭吾を煽る。蹲って自分のものを愛撫する朔を眺めながら、圭吾は指を舐めた。朔が根元からゆるゆると先まで唇を移動させ、先端に尖らせた舌先を押し付ける。ちゅっと吸い付いた時、圭吾は肩に掛けていた羽織を投げ出して、身体を横たえた。
「…え?」
「後ろ、解してやるよ」
「や、待って…!」
「いいから。あんたは俺のをしてくれ」
 朔の腰を引き寄せ、強引に自分の顔を跨がせると、圭吾は朔の着物を捲り上げた。
「けいご…!」
「ああ、もう濡れてんな。悪ぃようにはしねぇから…続けなよ