圭吾は出来るだけゆっくりと、唇を解放してやる。荒い息をつく朔の、濡れた瞳を覗き込んだ。
「どうだ、ちったあ落ち着いたか?」
「っ、ふ…けいご…」
「なんて顔してんだ…お前なあ、身体が変わっちまったんだ。仕方ねえだろ?」
「でも…っ」
圭吾なのに、と朔の視線が悲しげに訴えていた。紅潮した頬に口付け、圭吾は苦笑いを浮かべている。
朔を抱きしめる圭吾は、そのまま少し身体を揺らせてみせた。
「ひっ!あ…あっ」
「わかるか?繋がってる」
「ん…っ、ふ…」
「ちゃんと、繋がってんだろう?お前の身体は、初めて男を受け入れたのと、同じなんだよ。だから…全部最初から、俺が教えてやるから。…なあ、朔。痛ぇか?」
改めて圭吾に問われ、朔は躊躇いがちに頷いた。
「じゃあ、嫌か?」
「っ!…じゃ、ない…いやじゃないっ」
必死に首を振って否定する朔の頭を、圭吾は宥めるように撫でてくれる。
「ああ、わかってるよ。いいか、ゆっくり息をしてみな?…お前の身体が落ち着くまで、いくらでも待っててやるから」
優しい唇が額に落とされ、朔は目を閉じた。ゆっくりと開けた視界は、やっぱり涙に濡れてぼやけているけど。
そこには愛しげに自分を見つめ、微笑む圭吾がいてくれる。
何度も息を吐き、吸って。自分で言った通り待っていてくれる圭吾に、朔は甘えた声で囁いた。
「ね…けいご…」
「どうした?」
いつも鋭い圭吾の瞳が、甘く蕩けて朔を映していた。ぎゅうっと胸が締め付けられて、朔はまた泣きたくなってしまう。
「きらいに、ならないで?」
舌っ足らずの言葉に驚いたのか、圭吾は一瞬目を見開いた。それから、子供みたいに拗ねた表情になる。
「嫌いになんか、なるわけねえだろ。馬鹿言うな」
「だって…」
「お前ね。つまんないこと言ってると、本気で苛めるぞ?」
むすっとした顔。
ようやく朔は笑顔になって、圭吾の首に腕を回した。
ほっそりとした腕には、圭吾から刻まれた、鮮やかな花が咲いている。乱れた圭吾の着物からは、彼の三日月と夜桜が露になっていて。それに気づいた朔は、そろりと腕を摺り寄せた。
「なに、彫るんですか?」
「あ?」
「全部終わったら、私にも彫ってくれるって。そう言ったでしょう?」
想いを重ね合わせたとき、圭吾は約束してくれた。朔の痣が消えてしまったら、圭吾がこの身体を彫ってくれると。
「…お前は月がいいんだろ?」
「ええ…だって、あなたの身体には痣が残っているから」
だから何を彫っても、月を一緒に描いてくれとねだったのだ。
……まるで今の状況を忘れているかのような、夢に浮かされているような朔の言葉に、圭吾は眉を寄せた。
「圭吾?」
「あのなあ…落ち着くまで待ってやるとは言ったが、お前忘れてねえか」
「は?」
きょとんとした、朔の顔。渋い顔をしたまま、圭吾は朔を突き上げる。
「っ!ああっ」
「俺はずっと待ってんだぞ」
「あ、ああっ!あんっ!あああっ」
「もう待たねえからな」
ぺろりと唇を舐めた圭吾に身体を押さえられ、何度も突き上げられて。朔は首を振りながら甘い悲鳴を上げ続けた。