【9特集・改】 P:23


 
 
 亥の中刻。(22:40〜23:20)
 朔は一人起き上がり、障子を開いた。
 
 
 傍らには、圭吾が寝息を立てている。
 そっと見上げる先に、きれいな形の月が浮かんでいた。
 ごろりと寝返りを打った圭吾が、無意識だろうに自分を引き寄せようとする。
 くすっと笑った朔は、その手を握り締めた。安心したのか、圭吾の腕からすうっと力が抜けて。
「…今宵は三日月だったんですね…」
 今まではどうしても、その姿を見るのが切なかったから。こんなに落ち着いた気持ちで見上げることのなかった夜空に、弓形の痩せた月。
 朔はふうっと息を吐いた。

 同じ運命の元にいた兄や弟は、今頃どうしているだろう。静かで永い眠りが、彼らを包んでいればいいのだけど。
 どうか幸せに、と。朔は静かに呟く。
 彼らの行方が気にならないわけじゃないが、会って苦しめる可能性があるなら、このまま永遠に会わない方がいい。
 ……でも。
 彼らを愛してくれる人に会ってみたいと思うのは、我がままだろうか。それはきっと、自分が二人に圭吾を見て欲しいと思っているからだ。

 朔は圭吾を見下ろした。
 何度も何度も身体を繋いで、彼の精を注がれ、快楽に狂い声を上げた。今はこうして穏やかな寝息を立てている圭吾に、熱く翻弄されていた。

 この人が、一番大事な人なんです。

 そう伝えて、今の想いを聞いて欲しい。
 兄や弟以外の人を愛しく思うことが、罪悪のように考えていた時期もあるけど。彼らを愛しく思うのと、圭吾を見つめるのは、全然違う気持ちだと気づいたから。
 いつだって自分のことより、弟たちを優先してくれた兄に。
 どんな時にも兄たちの心を、大事にしていてくれた弟に。
 どうか、聞いて。

 この人が私を許してくれた。
 だからきっと、あなたたちも。

 圭吾の前髪が汗で貼り付いているのに気づき、朔が手を伸ばす。ゆったりかき上げてやったところで、ふいに圭吾は目を開けた。
「…さ、く?」
「あ…すみません、起こしてしまいましたか?」
「…眠れねえ、か…?」
「いえ。…少し目が覚めただけです」
「そうか。…ん」
 まだ眠そうな目で、圭吾は朔に手を差し伸べてくれる。
「はい?」
「おいで、朔…」
 首を傾げる朔に、圭吾が半分寝たまま笑みを浮かべた。
「一緒に、いるんだろ…」
「圭吾…」
「…おいで」
 朔は迎えてくれる手を取り、促されるまま身体を横たえて、圭吾の腕に頭を乗せた。朔の髪を撫でてくれる圭吾の寝息が、すうっと深くなる。
 それでもなお、慰めるような温かい手が頭を撫でてくれていて。
「…ずっと、捕まえていて下さいね…」
 ――私を離さないで……
 小さく呟いた朔は、安心したように微笑んで、自分も目を閉じた。



【了】