その鉱山が閉鎖されたのは、もう十年以上前のこと。落盤事故で多くの者が犠牲になったと聞いている。
人気のない鉱山にたどり着いたテオは、周囲に海賊の姿がないことを確認させた後、まずは落盤で亡くなった人々の為に、慰霊の儀を行うよう、部下に指示を出した。
すぐに簡素な祭壇が組まれ、全員で黙祷を捧げて。
海賊船が現れたのは、直後のことだ。
戦う準備のままならなかった第三隊は、一騎当千である五人の海賊に惨敗。
もちろん、戦いの途中テオが海賊に捕らわれたことも、大きな敗因だっただろう。
テオは部下が誤って放った矢に射抜かれ、ちょうど剣を交えていた敵の手に落ちてしまったのだ。
経緯を思い出して、テオはぎりっと奥歯を噛みしめる。どんな経緯であっても、今の状況を部下のせいにするつもりはない。
全ての責任は、隊長の自分にある。それが軍というものだ。
実父も養父も数々の戦果を上げている軍人。まだ若いテオだが、意識の高さでは数いる隊長たちの中でも、群を抜いていた。
十七歳という若さで第三小隊の隊長を務めているテオ。歳相応に小柄で、まだまだ少年性の抜けない可愛い容姿の彼だが、テオはそうなってしかるべき才覚を持ち合わせている。
自分の倍もあるような体格の相手でも、躊躇なく立ち向かえる精神力。
どんな状況であっても、素早く正確に判断できる勘の良さ。
しかし何より、それらを支えて余りある剣技と俊敏性が、周囲を納得させている。
テオは自分に自信を持っているし、部下たちも歳若い隊長を信用してくれていた。
―――ちゃんと、逃げられたかな…
痛みに身体を震わせながら考えたのは、部下たちのこと。そしてその先にいる今の国王、クリスティンのことだ。
部下たちはもちろんテオの所有物などではなく、王からの借り物。このラスラリエという王国に存在する限り、人でも物でも全ては陛下の所有物だ。
だからこそ人々は安心して暮らせるし、力の限り自分たちを守ってくれる国王陛下を、愛している。
ラスラリエでは確かに子供たちに対し、徹底してそう教育しているが、テオの忠誠は教育で培われたものではなかった。
文字通り我が身を捧げられるほど、深く強い気持ち。
事情があって王宮育ちのテオは、今の国王陛下に心からの敬愛を寄せていた。
気を失ってしまう直前、テオは部下たちに撤退を命じた。相手の力量を知っているからこそ、前もって副隊長に撤退後の行動を指示してあった。
鉱山から5キロ北側の森を抜けたところに野営を張り、駐留基地に残してきた部下たちへ援軍を要請。