【Lluis×Theo@】 P:03


 それとともに、王宮へ事態を報告して指示を受けよと。

 ―――大丈夫だと、思うけど…

 甘いと笑われそうだが、テオはたとえ一人でも、部下を失いたくない。
 一時撤退が恥だなんて思わない。作戦を練れば、何か方法があるはず。
 上に立つ者が一時の感情で先走ってはならないのだと…そう、育ての親から教えられた。

「目が覚めたようだな」

 近い場所から聞こえた低い声に、テオは飛び起きようとして、自分が拘束されていることに気付いた。

「っ…!」
「暴れない方がいいぞ。お望みどおり、傷は治してないんでね」

 暗闇に目を眇め、動かない身体を捻じ曲げて、テオは声の主を確認する。

「リュイス…」

 明かりがなくても輝きがわかる、プラチナグリーンのまっすぐな長い髪。さらさらの髪は肩にかかり、胸の上の辺りまで零れている。その輝きに縁取られた綺麗な顔立ちの中に納る、深い緑色の瞳には、隠しきれない苛立ちが現れていた。
 おそらくこの世界中でただ一人、緑の髪と瞳を持つ者だ。

 テオは唇を噛みしめる。
 戦いのさ中でも男の髪は輝いて見えた。彼が切り伏せているのが自分の部下でなかったら、再会を喜べたかもしれない。
 しかしいくら変わらぬ見た目であっても、目に見えない心の中が変わってしまったこの男は、敵なのだ。
 テオの愛する国を裏切った彼はもう、野蛮で罪深い海賊になり下がっている。
 強く望んでいた再会のはずなのに、彼に会えて知ったのは、わかっていたはずの悲しい事実だけ。

 かつての貴族然としていたリュイスからは、想像もできない海賊姿。
 安っぽいシャツに、肉体労働者のような荒い生地のパンツを履いて、昔のものとは程遠く装飾のない、無骨な剣を腰に差している。
 それでもプラチナグリーンに輝く長い髪と、緑色に澄んだ瞳の美しさが少しも変わらなくて、いっそうテオに苦い思いをさせる。
 リュイスは逆さまに置いて腰掛けている椅子の背もたれに寄りかかり、不機嫌そうに窓の外を見た。

「お前が気を失ってから、五時間というところか。そろそろ失血で死にそうだな」
「…………」
「どうだ。助けてくださいリュイス様、と言う気になったか?」

 ふざけた言葉にテオは顔をそむけ、現状を把握することに努めた。
 確かに窓からは、日の落ちきっている空が見える。
 狭い室内に、リュイス以外の海賊は見当たらない。
 ここはおそらく、落盤するまで鉱山で働く者たちの救護室だったのだろう。ガラスの割れた薬品棚や、破れた壁の掲示物からそう判断し、テオは記憶の中で地図を広げた。