もともと海に近かったこの鉱山は、落盤してその半分近くを水の中へと沈めている。到着する前に確認した地図と実際の現場は、あまりにも地形が変わっていて驚かされたから、よく覚えていた。
あの時、周囲を確認しつつ把握した地形を信じるなら、ここは鉱山のふもと。今や海の中へ滑り落ちてしまいそうな、ぎりぎりの場所だ。
そういえば外からは、かすかに波の音が聞こえている。
ちらりと視線を上げて、自分の手首を見た。
寝かされているのは診察台か。支柱に両手を括り付けられていて、逃げ出そうにも身動きは取れそうにない。
どうしたものかと思案をめぐらせるテオは、かつかつと自分に歩み寄ってくる足音を聞いた。
「本当に生意気になったな、お前」
どさっと身体に乗り上がったリュイスを睨みながら、テオはぐっとうめき声を漏らした。矢に射抜かれたわき腹は、まだ出血したままだ。
「お前の口は飾り物なのか?それとも海賊となった私なんかと、口をきくのは嫌だとでも?」
「…どうして殺さない」
リュイスを睨みながら呟くテオの言葉を聞いて、彼は嘲りの表情を浮かべる。
「殺す?冗談じゃない。どうして私が?」
「…………」
「死にたがる奴を助ける義理も、殺してやる義理もないだろ。そんなに死にたければさっさと死ね」
「だったらどうして貴様は今ここにいる!オレのことなんか捨てていけっ!」
「私に指図するな!」
ぱん!と頬を叩かれて、テオは目を見開いた。この状況で考えるのは愚かなことかもしれないが、リュイスに叩かれたのは初めてだったから。
…どんなに厳しくても、こんな即物的に暴力を振るう人じゃなかったのに。
「リュ…イス…」
「なんて顔をしてるんだ、テオ。まだ私に優しくしてもらえるつもりでいたか?」
「…僕を、置いていったくせに…」
「何だと?」
「優しくされたいなんて思ってない!王家を裏切り、国を裏切って…僕を…捨てていったくせに…」
「…ああ、そうだったな」
「そうだ…貴様、なんか…っ」
涙が溢れてくるのが、悔しくてたまらない。この男の前でだけは、泣きたくなんかないのに。
テオにとってこの綺麗な男は、大切な家族だった。両親を失った自分を引き取ろうと言ってくれた、親代わり。
厳しくて、意地悪で、とてもじゃないが人の親になれるような性格じゃないけど。でもテオは、彼のそばにいたくて、追いつけない背中を必死に追い続けていた。
ぼろぼろ零れるテオの涙に、リュイスは一瞬、驚いた顔をして。それから、にやりと口元を吊り上げた。
「へえ?」
「っ…ふ、く」