【Lluis×Theo@】 P:11


 自分の心の中のことなど、誰に知られることもないと思っていたテオは、内密に国王陛下から呼び出しを受け、自分の気持ちに気付いている唯一の存在を知った。

 私用だから、と自室にテオを呼んでくれた国王、クリスティン。金色の髪を風に揺らせて窓辺に立っていた彼が、振り返ったとき。
 袖口からは真っ白な包帯が覗いていた。

 ―――テオ

 優しく名前を呼んで、青く澄んだ瞳にテオを移したクリスティンは、緩やかに手を差し伸べてくれた。

 物心つく前に母を亡くし、幼い頃に父も亡くしていたテオは、リュイスに引き取られてから王宮で育っている。そのせいで皇太子だった頃のクリスティンとは面識があり、時には二人で親しく言葉を交わす間柄だった。
 いつも穏やかで、気遣いの細やかなクリスティン。彼は昔からこうして、テオを見つけるたびに優しく声をかけてくれた。
 しかし今は、立場が違う。
 自分はただの軍人で、彼はもうこの国の王なのだから。
 躊躇うテオに笑みを浮かべると、クリスティンはもう一度テオを呼んでくれた。

 ―――おいで、テオ。

 静かな声に逆らえず、そばまで歩み出たテオの細い身体を、クリスティンは柔らかく抱きしめてくれて。

 ―――海賊討伐隊に、志願したんだね。

 労わるように髪を撫でてくれる、冷たい指先。その指の先、クリスティンの二の腕に巻かれた包帯の下には、深く無残に切りつけらた傷跡があることを、国中の人間が知っていた。
 何も言えずに頷くテオの顔を上げさせると、クリスティンは悲しげな顔で微笑んでいて。

 ―――すまないね…私が不甲斐ないばかりに、お前まで苦しめてしまう。
 ―――そんな!そんなこと仰らないで下さい…陛下は、我々を助けて下さったのですから…

 それ以上言葉を続けられなかった。

 あまりにも唐突だった、魔族たちの裏切り。頭でいくら理解しても、心がついていかない事態に、苦しむ者は国民の中にも多い。もちろんテオもその一人だ。
 もしかしたら、現場にいたクリスティンも同じ気持ちなのではないかと思って。
 …いや、テオなどより、クリスティンの方がよほど傷ついていているはずだ。
 心も、身体も。

 テオの親代わりであるリュイスと、クリスティンの弟である第二王子は、仲間と共に国を裏切り、先王を殺し、優しいクリスティンまでも殺そうとした。

『血の戴冠式』

 後にそう呼ばれることになった、悪夢の日。
 先王アーベルを殺し、列席者を何人も殺して国を乗っ取ろうとした第二王子の姦計は、必死に抵抗したクリスティンの尽力で未遂に終わった。