【Lluis×TheoA】 P:02


 静かに視線を巡らせれば、逞しい上半身を晒したまま、壁際の椅子に腰掛けて眠っている男が見える。目覚める様子のない、プラチナグリーンの髪の男。
 緑の賢護石(ケンゴセキ)、リュイスだ。

 いまだ転生を繰り返し、王家に忠誠を誓った部族長たちと同じ色の髪と瞳、同じだけの魔力を持って生まれる者。
 五人の賢護石を総称して、賢護五石と呼ぶ。

 じくりと痛む心を感じ、テオは唇を噛みしめた。
 王家を護る賢護石でありながら、それを裏切りヒトに剣を向けたリュイスたち。どうしてそんなことになったのか、ここへ連れて来られてから、何度反乱の経緯を聞いても、彼は何も話してくれない。
 話せない理由は何だと尋ねるテオに、リュイスは曖昧な笑みを浮かべて、聞こえないふりをする。

 テオの率いる第三小隊と、リュイスたち海賊が遭遇して、三日が経っていた。
 敗軍の将であるテオはリュイスに囚われたままだ。
 落盤事故が起きて以降、閉鎖された鉱山の寂れた救護室。簡素な診察台に、テオは今も繋がれている。

 第三小隊の半数を駐留基地に置いたままこの鉱山に赴いたテオたちに、勝ち目など最初からなかった。相手は海賊討伐隊が総がかりで戦っても勝機の見えないほど、強大な敵なのだから。
 それでも部下たちはテオの命に従い、善戦していたと思う。しかし相手が高い魔力を誇る賢護石たちでは、準備不足を考慮しても力が違いすぎた。
 その上、最後まで冷静でいなければならないはずの隊長であるテオが、リュイスを前に戦いの途中で、集中力を欠いたのは事実。あれが敗戦の決定的な原因とまでは言わないが、それでも指揮官として、絶対にやってはいけないことだった。

 いきなり廃鉱山近くの海に現れた海賊船は、すでにテオたちの姿を捕捉していたのだろう。
 海賊討伐隊を翻弄し続ける小さな帆船に人影が見えたと思ったら、彼らは魔力を使って先に攻撃をしかけてきた。
 動揺する部下を叱咤し、声を上げて指示を出していたテオは、その帆船から真っ先に飛び降りた男を見て、それがリュイスだとすぐに気がついた。
 腹が立つくらい余裕を見せて戦う姿。懐かしい剣技に、プラチナグリーンの長い髪が揺れるのを見た瞬間から、テオの視界にはリュイスしか見えなくなってしまった。

 激しい戦闘の中、どうやって彼のそばまでたどり着いたのか、よく覚えていない。
 制止を叫ぶ副隊長の声を聞いたように思うが、よく思い出せない。

 リュイスの名を叫び、彼の元へ駆けつければ、緑の瞳が少し驚いたように見開かれて。それから、やけに楽しげな口元がにいっと意地悪く吊り上った。