剣の切っ先が自分のほうを向いたので、慌ててテオも剣を構えた。何度か鍔を合わせたと思う。
しかし幼い頃からテオの剣を鍛えてくれたのはリュイスだ。いわば師である彼に、敵うはずがなかった。
戦いの全てを、テオはリュイスに教わったのだから。
両手を拘束されたまま、テオは重たい息を吐き出した。
小隊長の責任を投げ出した結果、リュイスを狙った味方の矢に倒れ、当のリュイスの手に落ち、捕虜となった彼はここで、吐き気がするような陵辱を強いられている。
衣服を剥ぎ取られた自分の身体を見下ろし、裸身に残る情痕に目を止める。悔しさにぎりっと奥歯を噛みしめた。
同性である自分の身体を、無理やり開くような所業。かつてのリュイスからは想像もできなかった、一方的な暴力。
賢護石だった彼がどうしてこんなことをするのかと、考えるほどにテオは辛くなるのだ。
腹立たしさより、悲しい方が強かった。
テオが大好きだった緑の賢護石は、もういないのだと思い知らされる。
リュイスと彼の仲間が起こした反乱は、ラスラリエ王国から護りの要を奪っただけではなく、テオの夢まで叩き潰したのだ。
あの反乱劇が起こらなければ、テオはずっとリュイスの隣で、共に戦っていられたはず。その為なら、どんな努力も惜しまなかった。
いつかリュイスに立ち並び、彼の信頼を得て戦うこと。それがテオの夢だった。軍人であるリュイスに近づける、唯一の手段だと信じていたから。
夢が叶えば、確かに彼らはずっと一緒にいられただろう。
テオがリュイスの歳を越え、いつか先に命尽きるまで。
賢護石に決まった寿命はない。
目の前で眠っている男も、三十前に見える容姿がそのまま、彼の生きてきた長さではなかった。
幼いテオが初めて出会ったときも、テオが生まれるずっと前に描かれた肖像画でも、リュイスは今と少しも変わらない容姿をしている。
賢護石は他の魔族と違い、生まれてたった五年ほどで、重責を担えるまでに成長する。その後はそれぞれが最も魔力を奮える容姿で成長を止め、命尽きるまで国の要として生きるのだ。
不死というわけではないが、他の者と違い大きな魔力を持つ彼らにとって、天命とは自らが決めるもの。己で逝くことを望まぬ限り、賢護石が不慮の死を迎えることなどほとんどない。
彼らの命を左右できるほどの力を持った者はおらず、彼らが命を奪われるような事態などまず起こらない。
テオはリュイスが何代目にあたる緑の賢護石なのか知らない。