【Lluis×TheoA】 P:03


 剣の切っ先が自分のほうを向いたので、慌ててテオも剣を構えた。何度か鍔を合わせたと思う。
 しかし幼い頃からテオの剣を鍛えてくれたのはリュイスだ。いわば師である彼に、敵うはずがなかった。
 戦いの全てを、テオはリュイスに教わったのだから。
 
 
 
 両手を拘束されたまま、テオは重たい息を吐き出した。
 小隊長の責任を投げ出した結果、リュイスを狙った味方の矢に倒れ、当のリュイスの手に落ち、捕虜となった彼はここで、吐き気がするような陵辱を強いられている。
 衣服を剥ぎ取られた自分の身体を見下ろし、裸身に残る情痕に目を止める。悔しさにぎりっと奥歯を噛みしめた。

 同性である自分の身体を、無理やり開くような所業。かつてのリュイスからは想像もできなかった、一方的な暴力。
 賢護石だった彼がどうしてこんなことをするのかと、考えるほどにテオは辛くなるのだ。
 腹立たしさより、悲しい方が強かった。
 テオが大好きだった緑の賢護石は、もういないのだと思い知らされる。
 リュイスと彼の仲間が起こした反乱は、ラスラリエ王国から護りの要を奪っただけではなく、テオの夢まで叩き潰したのだ。

 あの反乱劇が起こらなければ、テオはずっとリュイスの隣で、共に戦っていられたはず。その為なら、どんな努力も惜しまなかった。
 いつかリュイスに立ち並び、彼の信頼を得て戦うこと。それがテオの夢だった。軍人であるリュイスに近づける、唯一の手段だと信じていたから。
 夢が叶えば、確かに彼らはずっと一緒にいられただろう。
 テオがリュイスの歳を越え、いつか先に命尽きるまで。
 
 
 
 賢護石に決まった寿命はない。
 目の前で眠っている男も、三十前に見える容姿がそのまま、彼の生きてきた長さではなかった。
 幼いテオが初めて出会ったときも、テオが生まれるずっと前に描かれた肖像画でも、リュイスは今と少しも変わらない容姿をしている。
 賢護石は他の魔族と違い、生まれてたった五年ほどで、重責を担えるまでに成長する。その後はそれぞれが最も魔力を奮える容姿で成長を止め、命尽きるまで国の要として生きるのだ。
 不死というわけではないが、他の者と違い大きな魔力を持つ彼らにとって、天命とは自らが決めるもの。己で逝くことを望まぬ限り、賢護石が不慮の死を迎えることなどほとんどない。
 彼らの命を左右できるほどの力を持った者はおらず、彼らが命を奪われるような事態などまず起こらない。
 テオはリュイスが何代目にあたる緑の賢護石なのか知らない。