ただ彼らの忠誠と転生は、何百年もの間続いてきた変わらぬ歴史だったし、これからもそうであるはずだった。
全てを覆した、一年半前の血の戴冠式。
なぜヒトは、魔族に恨まれるようになってしまったのか。魔族たちの憎しみの理由が何なのか。
テオには想像すらできない。
しかし戴冠式の日、新国王クリスティンに対して彼らが唐突に牙をむいたのだけは事実だ。
ラスラリエ王国軍において、元帥の地位にいたリュイス。
めんどくさいと呟きながら、いつもと変わらぬ様子で戴冠式に出掛けて行った、あの日の朝。
全てが変わってしまった日の朝を、テオはこれまで何度も思い出し、見つからない答えを探して苦しみ続けていた。
ヒトだけが罹患する死の病は、戴冠式の何ヶ月か前から国に蔓延していた。それを魔族のせいだと騒ぐ人々がいたのは、テオも知っている。
ただ、魔族であるリュイスの元で育ち、友人や知人としても多くの魔族と親交のあったテオは、巷に流布する噂を信じてなどいなかったけど。
でもそれは、事実で。
魔族たちがヒトを滅ぼそうとし、実力行使に出ていたことを、人々は戴冠式の後になって思い知ったのだ。
彼らを率いていたのは賢護五石と、もう一人。ヒトであるはずの、この国の第二王子だった。
戴冠式の日、反乱者たちはヒトの頂点である国王に剣を向けた。
首謀者はラスラリエを護る要だったはずの賢護五石と、新王クリスティンの弟である第二王子。
詳細は明らかにされていないが、戴冠式の出席者たちに毒を盛り、王家の人々に剣を向けた彼らは、思わぬクリスティンの抵抗にあって、赤の賢護石を失い敗走したのだという。
一命を取りとめた出席者たちの証言によると、目を覚ました時、血臭のする玉座の間では、血まみれになったクリスティンが自身の傷にも構わず、先王といまだ目を覚まさぬ人々のため、救命に奔走していたらしい。
先王アーベルを切り捨てたのは、息子である第二王子。
彼は仲間である赤の賢護石が命を落としたことを知ると、その魔力を引き継いで、自身を魔族に変えた。
そんな方法があったのだと、人々はこの戴冠式で初めて知る。禁呪だったのは間違いないだろう。
父を殺し、兄に斬りつけ、死んだ仲間の力まで奪い去った第二王子は、いまや海賊の長となって、ラスラリエ国民に害をなし続けている。
信頼していた賢護石たちと、愛していた弟に裏切られ、自身も斬りつけられた新王クリスティンは、国民の誰よりも傷ついていたはずだ。