それでも彼はたった一人、要を失ったラスラリエを背負い、懸命にテオたち国民を護ろうとしてくれる。
大局を見据えて国を導き、しかもテオのような小さな存在にまで心を砕いて。
気高く厳かな王の資質を具えた金色の髪と、穏やかで優しい気質を表すような、アイスブルーの瞳。
テオが海賊討伐隊に志願したことを知ると、忙しい身の上でありながらクリスティンはわざわざ時間を割いて、テオと会ってくれた。
余計なことは何も言わず、リュイス会いたさに志願したテオの志望動機を咎めようともしない。ただ強くテオを抱きしめ「必ず私のところへ戻ってきなさい」と囁いてくれたクリスティン。
その時のことを思い出し、テオは帰還への意思を強くする。
こんなところで捕まっているわけにはいかない。
ゆっくり身体を捩り、睨むようにして視線を上げた。
それに気付いたのは、昨日の事だ。
手を縛り付け拘束されている、診察台の支柱。テオの自由を奪うそれは長年放置されているために、老朽化でかなり傷んでいた。
リュイスの様子を伺いながら、テオは物音を立てないよう慎重に支柱を掴んだ。
治癒力を持つリュイスによって、身体の傷は治されている。敵の手で傷を癒されることに、最初は激しく拒絶したテオだが、今となってはそれが幸いだ。
強く支柱を動かしてみる。
ぎしぎし音を立てるのが心配だったが、なんとか錆びた部分が崩れるまで、リュイスは目を覚まさなかった。
わずかな隙間に縄で縛られた手を差し入れた。ぎりぎりの間隔で手首が擦れ、傷ついてしまったが、そんなことに構っていられない。
息をつめて脱出を図るテオの中で、焦りが膨らんでいく。気まぐれな陵辱を繰り返していたリュイス。いま目を覚ませば、ただでは済まないだろう。
どれくらいそうしていたのか、テオははっとして視線を上げた。
―――外れた!
拘束さえ解けてしまえば、もう長居は無用だ。
勢いよく身体を起こし、テオは手首に残っていた縄を手首から外して、診察台に放りだしてしまう。
リュイスに捕まってから水しか与えられていなかったせいか、足をついた瞬間、空腹のためにふらついてしまったが、なんとかテオは体勢を立て直した。
おざなりに放り出されていたリュイスのシャツを掴む。
これだけを着て外に出るのは心許ないが、何も着ないよりはマシだ。テオの服は袖を通せないほど、切り裂かれて捨てられてしまったのだから。
そうっと振り返った。
リュイスの目は閉じられたまま。