腕を組んで眠りに落ちているリュイスは、細身でありながら筋肉質の胸に、例のペンダントだけをつけている。
金で細かい装飾が施されたペンダント。
それだけは変わらず、彼がずっと大切にしているもの。
じっと見つめるテオは、しばらく動きを止めていた。彼の目に浮かぶのは、嫉妬の色かもしれない。
戴冠式の後、仲間と共に敗走したリュイスは、ただあのペンダントだけを持って王宮を去った。
他には何も、持っていかなかった。
戦いを共にしていた剣も、手に入れたばかりでお気に入りだったはずの指輪も…自分の手で育てた、テオのことも。
彼は、全てを捨てて海賊になったのだ。
きゅっと唇を噛みしめたテオは、何度か頭を振る。
感傷に浸っている場合じゃない。
そのまま二歩、三歩と下がり、踵を返して扉に走った。施錠されているかどうかだけが不安だったが、試しにテオが扉の取っ手を掴んで回してみると、わずかに軋みながら動いているのがわかる。
鍵はかかっていない。
ほっとして力を込めたテオが、ゆっくり扉を開けた。
外の景色が見えた。
暗い色の海が、テオを迎えている。
脱出できることに安心し、頬を緩めた瞬間。半分ほど開いたはずの扉は、バンッ!と派手な音を立てて、再び閉ざされてしまった。
「どこへ行くつもりだ?テオ」
低い声。
テオの顔の横から伸びた指の長い手が、強く扉を押さえている。愕然として首を捻れば、にやにや笑っているリュイスの姿。
その表情を見て、テオは彼がとっくに起きていたのだと理解した。
「き、さま…」
「随分と艶めかしい格好だな。私だけでは物足りなくて、男漁りにでも出るのか?」
「ふざけるな!」
振り返って怒鳴るテオを見つめ、リュイスは余裕の窺える顔で肩を竦めている。
「ふざけてなどいないさ。どうせお前にはもう、戻る場所などないんだよ」
「うるさい!僕は帰るんだ!」
「聞き分けのない子だ。海賊の手に落ちた隊長を、誰が迎える」
「貴様になんかに何がわかる!…僕は必ず帰還する。陛下のもとへ戻ると約束したんだ」
「…………」
「僕だけは絶対にクリスティン様を裏切らない!絶対にだ!貴様とは違うっ」
テオがそう叫んだ途端、リュイスは視線を鋭くして、いきなりテオの頭を扉に叩き付けた。
「っ…!」
「学習しない奴だな。私の前でその名を出すな。虫唾が走る」
頬を扉に押し付けられたまま、テオはリュイスを見上げる。