王宮にいた頃は、自分の脱いだものさえ畳む必要のない生活をしていたリュイスなのに。わざわざ彼が拾って畳んだのかと思うと笑えてしまう。
苦笑いを浮かべて机までたどりつき、テオはふらつきながらもそれを身に着けた。
裸身が衣服で包まれたことにほっとして机に手をつくと、指先に何か硬いものが当たる。
目を遣ればそれは、見覚えのあるペンダントだった。
「これ…」
思わず手に取って握り締めたのは、リュイスがいつもつけている、少し大きめのペンダント。
自分の見た目に無頓着で、服でも剣でも実用的なシンプルなものを好むリュイスなのに、これは豪華なつくりにも関わらず、珍しく気に入っていた。
何がそんなに気に入っていたのか、彼はテオが幼い頃からこれを手離さなかった。
誰にも触らせず自分で管理し、正装しなければならない席でも、服の中につけていたのを知っている。
何か、思い出でもあるのかもしれない。大切そうに眺めて、物思いにふけっている姿を見たこともあった。
テオはなんとなく、それをリュイスと同じように、首からさげてみる。
金で装飾の施されたペンダントは、細身でありながらも逞しいリュイスの容姿にとても似合っていたが、テオには少し大きいようだ。
よく見ると装飾以上にペンダント自体が凝った作りになっていて、何かを中へ入れられるよう見える。
開けてみようかと、首にかけたまま手に取り、しかしテオは頭を振った。
幸せだった頃の記憶は辛いだけだ。
ここに何を見つけても、今となっては苦しさを増すだけだろう。リュイスは変わってしまったのだから。
もしリュイスにとって、今テオにしていることが昔と同じイタズラの一環なのだとしたら、あまりにも度を越している。
あの男はもう、テオの知っている緑の賢護石ではないのだ。
「クリスティン様…」
リュイスの前ではけして口に出来なくなった国王の名前を呟いて、ペンダントから手を離し、テオは両手を握り合わせると自分を奮い立たせる。
懐かしい記憶の中に自分の使命を見つけて、強引に思考を切り替える。
どんなことをしても、陛下のもとへ戻らなければ。
テオに残された希望。
多くのものを失い、それでもなお笑みを浮かべてテオを抱きしめてくれた、クリスティンのために戦うこと。育ての親であるリュイスが彼を裏切ったなら、その分まで自分は忠誠を捧げ、国を護るのだ。
ただクリスティン陛下のためだけに。
もうテオには、それしか残っていないのだから。