【Lluis×TheoB】 P:07


 施錠されている向こう。波の音にまぎれて聞こえる話し声。一人は間違いなくリュイスの声だ。

「わかっていると言ってるだろ。大概しつこいぞ、お前」

 うんざりしたようなリュイスの声に、相手は苛立った様子で応じている。

「ふざけるなよ。誰のせいで私がこんな、面倒な真似をしていると思ってるんだ」
「じゃあ、しなきゃいいだろ」
「バカだろう、お前!…ったく。なあリュイス。誰だって食わなきゃ、死ぬんだ。自分が少しくらい飯を抜いても平気だからといって、他の人間まで同じだと思うな」
「…わかってるさ」
「わかっていないから言ってるんだ。テオはまだ十五かそこらだろう?」
「十七」
「子供だということに変わりない。あれくらいの子は、一日三回食べても全然足りないんだよ。わかっていると言うなら、もっと食べさせてやれ」
「お前…本当に面倒見がいいな、レフ」

 リュイスの呼びかけた名前を聞いて、テオは驚きに目を見開いた。
 レフ。黄の賢護石。
 リュイスと同じく戴冠式で王家に牙を剥き、海賊に成り下がった魔族だ。

「違うっ!死なれたら余計面倒だと思ってるだけだっ!」
「はいはい。テオとお前はオコサマ同士、昔から仲が良かったからな」
「いい加減にしろよリュイスっ!」

 笑いを含んだリュイスの声がよほど気に入らないのか、レフは執拗に違うと言い続けていた。

 賢護五石には決まった寿命がなく、彼らはもっとも有効に魔力を使える容姿で、年齢が止まる。
 最年長に見えた赤の賢護石ディノは、確かに見た目のまま賢護石として在席期間も年齢も一番上だった。
 しかし最年少に見えるこの黄の賢護石レフは、いまやテオより年下でもおかしくない容姿だが、実のところリュイスより長く賢護石の任を努めている。

 思いがけない声の主に、テオはきゅうっと胸の辺りを握り締めた。
 ここ数日で急に与えられるようになった食事。囚われてすぐの頃は考えてもいなかったのか、リュイスが食事のことを口にしたことはなかったのに。
 テオは最初、リュイスの与えるものなど食べたくないと抵抗していたけど。リュイスに「では逃げる気がないのか」「空腹では逃げ出すことも出来ないだろ」と揶揄されて、仕方なく渡される食事を摂るようになったのだ。
 どれもバランス良く色とりどりで、ボリュームがあり美味しかった。捕虜に与えられるにしては、あまりに心遣いの行き届いていた料理。
 なんとなく覚えのある味だとは思っていたけど。

 ―――レフ様が作ったものだったんだ…

 賢護石の中でも少年の姿で年齢が止まったせいか、テオにも気さくだったレフ。