【Lluis×TheoB】 P:08


 彼は自分で料理を作り、周囲の者に振舞うのが趣味だった。テオも何度か口にしたことがある。
 それは確かに、王宮の料理人たちでも適わないくらい美味しくて。
 ここで与えられているものと同じ味だ。

 裸で食事なんか出来ない、とテオが文句を言ったら、リュイスは服を持ってきてくれた。冷めていて美味しくない、と愚痴を零せば、火をおこして温め直してくれた。
 いつも嫌味を言いながら。
 でもリュイスは、テオの望みを出来る限り叶えてくれていた。
 急に軟化したリュイスの態度。その後ろには、レフがいたのだろうか。

 王宮にいた頃のレフが、テオの中に蘇ってくる。
 仕事に関しては厳しい人だったが、拷問のように続くリュイスの稽古を止めてくれるのは、いつもレフだった。

 リュイスのしごきについていけなくて、テオが己の不甲斐なさに泣いていると、レフはよく「お前は頑張ってると思うぞ」と慰めて、自分の作った料理を振舞ってくれたのだ。
 ちょうど、今みたいに。
 お前ぐらいのときはいくら食べても足りないだろ、と言って。
 ちゃんと食べて大きくなれば、そのうちリュイスなんか負かせるようになる、なんて。笑って。

 もしかしたら、レフがこの状況を変えてくれるかもしれない。
 意地悪なリュイスではなく、レフならちゃんとテオの話を聞いてくれるだろう。

 どうして彼らは戴冠式の日、王家に剣を向けたのか。なぜ今、海賊になってまでラスラリエに歯向かい続けるのか。
 いや、せめて自分が監禁されている理由だけでも話してもらえたら。

 唐突に沸きあがった期待。
 レフはいつもまっすぐ目を見て、テオの話を聞いてくれた。厳しいことを言われたこともあるが、彼はちゃんと説明して、進むべき道を示してくれたから。
 もしかして。
 いや、レフならきっと。

 テオは扉に手をかけてみる。鍵がかかっていて開かないが、中から強く扉を叩けばレフも気付くだろう。
 どうしようか迷うテオの耳に、レフのため息が聞こえた。

「わかっているのか?いつまでもこんなことは、やってられないんだぞ」
「…そうだな」
「お前がテオを仲間に引き入れると言うから、私も協力しているんだ」

 その言葉に愕然として、テオは後ずさった。

 ―――仲間に、引き入れる?

「今の王宮内に仲間がいれば、我々が行動しやすいのも確かだ。テオならあいつも警戒しないだろうしな」
「するわけないさ。あんなオコサマに」
「そこが盲点だと言ったのは、お前じゃないか。内通者を得るためだと考えて、お前の不在が許可されたんだぞ?いつまで手間取っているつもりなんだ」