彼は自分で料理を作り、周囲の者に振舞うのが趣味だった。テオも何度か口にしたことがある。
それは確かに、王宮の料理人たちでも適わないくらい美味しくて。
ここで与えられているものと同じ味だ。
裸で食事なんか出来ない、とテオが文句を言ったら、リュイスは服を持ってきてくれた。冷めていて美味しくない、と愚痴を零せば、火をおこして温め直してくれた。
いつも嫌味を言いながら。
でもリュイスは、テオの望みを出来る限り叶えてくれていた。
急に軟化したリュイスの態度。その後ろには、レフがいたのだろうか。
王宮にいた頃のレフが、テオの中に蘇ってくる。
仕事に関しては厳しい人だったが、拷問のように続くリュイスの稽古を止めてくれるのは、いつもレフだった。
リュイスのしごきについていけなくて、テオが己の不甲斐なさに泣いていると、レフはよく「お前は頑張ってると思うぞ」と慰めて、自分の作った料理を振舞ってくれたのだ。
ちょうど、今みたいに。
お前ぐらいのときはいくら食べても足りないだろ、と言って。
ちゃんと食べて大きくなれば、そのうちリュイスなんか負かせるようになる、なんて。笑って。
もしかしたら、レフがこの状況を変えてくれるかもしれない。
意地悪なリュイスではなく、レフならちゃんとテオの話を聞いてくれるだろう。
どうして彼らは戴冠式の日、王家に剣を向けたのか。なぜ今、海賊になってまでラスラリエに歯向かい続けるのか。
いや、せめて自分が監禁されている理由だけでも話してもらえたら。
唐突に沸きあがった期待。
レフはいつもまっすぐ目を見て、テオの話を聞いてくれた。厳しいことを言われたこともあるが、彼はちゃんと説明して、進むべき道を示してくれたから。
もしかして。
いや、レフならきっと。
テオは扉に手をかけてみる。鍵がかかっていて開かないが、中から強く扉を叩けばレフも気付くだろう。
どうしようか迷うテオの耳に、レフのため息が聞こえた。
「わかっているのか?いつまでもこんなことは、やってられないんだぞ」
「…そうだな」
「お前がテオを仲間に引き入れると言うから、私も協力しているんだ」
その言葉に愕然として、テオは後ずさった。
―――仲間に、引き入れる?
「今の王宮内に仲間がいれば、我々が行動しやすいのも確かだ。テオならあいつも警戒しないだろうしな」
「するわけないさ。あんなオコサマに」
「そこが盲点だと言ったのは、お前じゃないか。内通者を得るためだと考えて、お前の不在が許可されたんだぞ?いつまで手間取っているつもりなんだ」