「これはこれは」
「っ…!離せっ」
「随分と可愛がってもらったようだ」
「違うんです、話を…」
「何の話をなさるおつもりで?リュイス元帥との閨事ですかな。それは確かに興味深い話ですなあ」
「なっ…!」
髭面をいやらしく歪めた副隊長の表情に、テオは愕然として自分を捕えている兵士たちを見た。
明らかな蔑みの視線。その中にちらつく卑しい欲情の熱が、自分の身体に向けられているのだとわかって、思わず顔に熱を上らせる。
「やめろ!貴様、隊長に何を言ってる!」
「隊長逃げてください!こいつは…こいつのやっていることは、反乱だ!!」
同じように捕えられたまま、叫んだ兵士のもとへ足早に近づいた副隊長は、彼らを思い切り殴りつけた。
「やめなさいっ!」
咄嗟に叫んだテオの言葉も聞かず、副隊長は何度も何度も一方的な暴力を与えている。止めに入ろうともがくテオだが、三人がかりで押さえつけられていては身動きが取れない。
「何が反乱だ!これは当然の権利だ!」
「やめろ!それ以上彼らに手を出すなっ」
「こんな子供に何が出来る。海賊に股を開いているのが関の山だ!どいつもこいつも私をコケにしおって…忌々しい!忌々しいガキめ!!」
テオへの不満を口にしながら、テオのことを庇った兵士たちを殴り続けている。副隊長は一人の兵士が昏倒したのを知ると、血で汚れた自分の手を気を失った彼の軍服で拭い、肩で息をしながら再びテオのところへ戻ってきた。
「き、さま…っ」
「誰のおかげで隊長面が出来ていたと思っているんだ、テオ・オーベリ。私がおらねば第三小隊など、クズの集まりでしかなかったのだ」
「たとえそうだとしても。僕に力が足りなかったとしても!彼らが立派に戦えていたのは、貴様の力じゃないっ!彼らが自分で努力したからだ!」
「黙れ!!」
抵抗できないテオを思い切り蹴りつけた副隊長は、何かが落ちたのを見て眉を寄せる。はっとしたテオが動くより先に、彼はそれを拾い上げた。
「リュイスのものだな」
金色に光るペンダント。テオは否定するように首を振るが、リュイスがいつもそれを身に着けていたことは、周知の事実だ。
「豪華な作りだ。魔族風情などより、私にこそ相応しい」
満足げにそれを首にかけている副隊長の姿に、テオは唇を噛みしめた。
お前などに似合うものか。
リュイスがそれをどんなに大切にしていたか、知らないくせに。
「返せっ」
「ほう?なるほど、元帥からもらった秘事の証というやつか」
「違う!それはお前が身に着けていいようなものじゃないっ」