【Lluis×TheoC】 P:06


 
 
 
 海賊であるリュイスの元をようやく逃れたと思ったら、今度は仲間であるはずの副隊長に捕らえられてしまうなんて。
 鉱山へ向かう前に派遣されていた基地へと連行されたテオは、牢の中で溜息を吐き出してしまう。
 一番奥の小さい牢にはテオ一人だが、横並びに続く他の牢には、何人もの罪のない兵士たちが押し込められていた。
 副隊長の反乱に抗議したり、テオを救い出そうとした者たちだ。
 基地へ戻った副隊長は残っていた者へ、勝手に捏造した経緯を語ったのだが、彼のそんな戯言など、大半の兵士は信用しようとはしなかった。
 ただ、彼についたほうが有利だと思う者も少なくなかったのは事実。
 自分の味方ではない者など必要ないとばかりに、副隊長は二十人以上の兵士を捕え拘留してしまった。

 なんとか彼らだけでも救わなければならない。焦ったテオは最後の望みをかけて、国王クリスティンに連絡を取ってほしいと申し出たが、願いはあっさりと却下されてしまった。
 当然だろう。王宮から誰かが派遣されれば、副隊長の失脚は目に見えている。

 最初は壁の向こうから「大丈夫ですか」「頑張りましょう」と声を掛けてくれていた部下たち。
 しかしそんな彼らの中からも、一人二人と、寝返るものが出てきている。
 他の牢からは毎日のように、一方的な暴力の音が聞こえていた。基地を離れる気のない副隊長のせいで、王宮へ帰還する予定の立たない兵士たちが、己の不安や苛立ちを、無抵抗な囚人にぶつけているのだ。
 その状況を考えれば寝返るのも仕方ないことだと思うが、全てお前が悪いのだと、酷い言葉でテオを裏切り見捨てていく彼らに、いくら気丈なテオでもついに言葉を失ってしまった。
 同じように捕えられているのは今や、五人だけ。基地へ連行されてから、たった一週間の出来事だ。

 リュイスに鍛え上げられたはずの強い意志が、身のうちに広がり続ける虚無を、抑え切れなかった。
 時折様子を見に来る兵士たちは、嫌味な笑みを見せ付け、珍しい見世物でも見るように、テオを眺めている。
 テオは彼らの目に、リュイスの慰み者になることで生き延びた魔族の手先として、映っているのだろう。

 冷たい石の壁に背を預けて、ぼんやりと何もない宙を見つめる。
 打開策を探す気力が萎えていた。
 もしかしたらこのまま、処刑されてしまうのかもしれない。

 リュイスのところのいた時は、あんなにも必死に逃げ出そうとし、クリスティンに会うことだけを心の支えにしていられたのに。今となってはあの寂びれた救護室さえ懐かしいのだ。

 ―――どうしたかな、あの後…