【Lluis×TheoC】 P:08


 クリスティンの強靭な精神力を、似た立場になったテオは、初めて思い知った。

 身を抉られるような痛み。
 自分の何がいけなかったのか、堂々巡りを繰り返す後悔。

 リュイスに囚われていたときは、変わってしまった彼を見るのが辛かった。酷い陵辱に、身体も心も悲鳴を上げていた。
 でも、今は。
 こんなにも心が乾いて、思考が上手く回らない。

 牢の外がざわついている。何人かの兵士が集まり、テオを見てニヤニヤ笑いながらろくでもない相談をしていた。

「おい」

 兵士の一人がテオに声をかける。
 鉄格子を掴んで覗き込んでいる男。ちらりと視線を上げたものの、テオは何も答えようとしなかった。

「お前、魔族に犯されたんだろ?それとも自分で誘ったのか?」

 ここに幽閉されてから、何度となく繰り返された問いかけ。好色な興味は尽きることがないのか、入れ替わり立ち代り彼らは同じことを聞いてくる。
 うんざりして顔を背けるテオに、男たちは笑い声を上げた。

「おい、やめろ!」

 代わりに声を上げたのは、隣の牢に閉じ込められている兵士。テオはぼんやりと視線を上げ、声のする方の壁を見つめた。

「うるせえなあ、お前には聞いてねえよ」
「隊長がそんなことをするはずないだろ!この人が若くても強くて、信頼できる人だってことは、お前たちも知ってるじゃないか!」
「ソレとコレとは別だって」
「なんだあ?実はお前もこいつと寝たクチか?」

 元は同僚だった者たちの言葉に、テオを庇い続ける男も口を噤んだ。その様子に満足したのか、牢の外にいる兵士たちはテオに向き直る。

「なあ、隊長さんよ。魔族と交わったら例の毒で死ぬって話、本当か?」
「なに…?」
「副隊長は、だからお前には手を出すなって言うけどよ。よく考えたら、アンタ生きてんじゃん」

 にやにやと野卑た笑みを浮かべ、男は膝を折るとテオの顔を覗き込むようにして、鉄格子に手を掛けた。

 地方の町で発生し、ついに王都の人々まで罹患した死にいたる病。その根源が魔族の体液だということは、王宮の研究機関で突き止められている。
 魔族がヒトに牙を向いた、始まりの事件だ。
 当初は王都でも、魔族を責める者と、彼らに罪はないと庇う者に、人々の声は二分されていた。リュイスの手で育てられたテオも、魔族たちを庇っていた一人。
 しかしヒトは、あの血の戴冠式に思い知る。自分たちの身が、危険に晒されていたこと。
 魔族はとうに、自分たちを滅ぼす気で行動を起こしていたのだと。