だが魔族と身体を交えるくらいで、死に至ることはない。不本意ながらリュイスの陵辱を受け、生き延びているテオがその証明だ。
口元に淫猥な笑を浮かべる兵士たちもこの数日で、ようやくそのことに気付いたのだろう。
テオは本能的に後ずさっていた。
その様子を見て、テオの顔を覗き込んででいた男が肩を竦めて見せる。
「別にさ。元々、アンタをどうこうしようって気はなかったんだぜ?男になんか興味なかったしよ。若けえ隊長だなあ、こんな奴がアタマで大丈夫かよ?って。それっくらいだったんだ。でもよ、アンタあのリュイス元帥を篭絡したんだろ?そう聞いたら急に、悪くねえかもなって気になってよ」
「試してみたくもなるじゃん。アンタがどんな善がり声上げて、リュイス元帥を落としたのかさ」
「ばかなことを…っ!」
「いいじゃねえか、今更だろ?俺らの相手もしてくれよ、淫乱隊長」
そう言いながら、彼らは牢の鍵を取り出した。
「おい!やめろっ」
「オーベリ隊長!!」
他の牢もさすがに騒がしくなる。男たちはそれを鋭い声で制するが、しかしテオの危機を感じた部下は黙ろうとしない。
「隊長、逃げてください!」
一人が叫んだのを聞いて、テオは思わず顔を上げた。
「もう誰のことも考えなくていいんです!アンタは自分のことだけ考えろ!」
「おい、うるせえよっ」
「逃げ延びるんだ!邪魔になるなら目の前の男を排除しろ!」
熱い思いの篭った声に驚いて、テオはふらふらと立ち上がった。
「な…んで…」
どうしてそこまで、と考えて、ようやく思い出す。
テオと同じくらいの弟がいるから。だからアンタが気になるんだ。かつてそう語っていたのが、隣の牢で毎日、自分を励まし続けてくれていた彼だ。
鉱山に近い野営地で、副隊長に殴られていた兵士。
「こいつらの言いなりになんかなるな!自分の力を信じろ!」
「自分の…力…」
力なく俯き、顔を伏せたテオの目に、光が蘇っていた。
自分の力を信じる。
リュイスに鍛えられ、王家への忠誠を叩き込まれた、自分を。
テオは顔を上げた。
こんなところで死ねない。
牢の外にいる彼らは、この国の象徴だ。王家への変わらぬ敬愛と、賢護五石(ケンゴゴセキ)の不在という不安。その狭間で、本来の判断がつかなくなっている。
王宮に事の次第が知られたら、自分たちこそどんな目に遭うか、わかっていない。だから彼らを傷つけるようなことはするまいと、最後まで思っていたけど。
今テオに求められるのは、無事に帰還すること。