自分を信じて最後まで庇おうとしてくれている、強い心を持った彼らのことを、陛下のもとへ連れ帰る。それが小隊長である自分の役目。
必ず帰還せよと抱きしめてくれた、クリスティンへの忠義だ。
だからこそ、切り抜ける。どんなことをしてでも。
あのリュイスの元からでも逃げ延びたのだから。自分には出来る。
テオは一瞬のうちに状況を把握した。
彼らの武器、それぞれの立ち位置。牢を抜けるまでの道と、遮蔽物。外の様子を知ることは出来ないが、この基地の造りなら完全に頭に入っている。
中途半端に牢の扉を開いたまま、騒ぎ立てる他の牢に気を取られたままの男を、テオは扉ごと思い切り蹴り倒した。
「う、わっ!な、なんだっ?!」
「お前、何する気だっ」
慌てふためく兵士たちのうち、一番小柄な者から剣を奪い取る。テオはそれを握り直すと、しゃがんでいた者の背に回った。
素早く首筋に剣を押し当て、他の者への盾にしてしまう。
「鍵を出しなさい」
「て…めっ、なにを…」
「鍵を出せ!早くっ」
恫喝に怯んだ兵士は、震えながら腰にかけていた鍵束を手に取った。テオはそれを奪うと、彼の身体を盾にしたままゆっくり移動する。
「隊長…」
あっけに取られた顔で見つめる仲間に笑いかけた。
「お待たせしました」
「…………」
「お元気そうで、何よりです」
「おう!アンタもな!」
鍵を手渡され、自分で自分の牢を開けた兵士は、次々に仲間を救い出していった。先に出た者が、青ざめている暴行未遂犯たちから剣を取り上げている。
「隊長!全員出たぞっ!」
「武器も確保しました!」
「一気に抜けますよ、いいですか?!」
捕まえていた兵士を突き飛ばし、テオは部下を連れて扉へと走る。動揺した兵士たちが体勢を立て直すより早く、外に出たテオたちは扉を閉めて外側から鍵をかけた。
これで中の兵士は出られない。
「隊長、どうします」
「どうせ話してわかる相手じゃないでしょう。このまま王都まで走ります」
「おいおい…そりゃ、いくらなんでも追いつかれるんじゃねえか?」
「もちろん。ですから馬を…」
言いかけたテオは、外で起きている騒動に気付いて振り返った。思わぬ状況を目の当たりにして動きを止めてしまう。
「リュ…イス?」
呆然と呟いた名前。
叫び声を揚げて戦闘を繰り広げる第三小隊の中心に、緑の髪が輝いていた。
「リュイス元帥?!」
「まさか、なんでっ」
共に逃げ出した部下も驚きの声を上げている。
テオは息を呑んで、一度目を閉じると仲間たちを見つめた。