立ち止まったリュイスが、救護室のドアを蹴り開けた。そのまま真っ直ぐに診察台へ運ばれ、ゆっくり下ろされる。ここで受けた酷い陵辱を思い出したテオは、怯えた表情になった。
今度は何をされるのか。身を強張らせるテオは、リュイスに背中をぎゅうっと力強く抱きしめられる。
「っ…あ、ぁ」
どんどん熱を増す背中。この熱は、怪我のせいじゃない。
傷の周囲から生まれる熱は、けして不快なものではなかった。
「リュ…イス…さ、ま」
見なくてもわかる。リュイスの瞳は輝きを増し、背中の傷が治り始めているのだろう。
魔力による治癒。緑の賢護石(ケンゴセキ)にだけ与えられている力。
深手だったせいか、我慢できる限界まで熱くなった身体は、急速に温度を下げていって。やがて身体が楽になってくる。
ほっと息を吐いたテオは、大きな声で怒鳴られ、慌てて振り返った。
「何を考えているんだ、お前は!!」
「あ、あの」
「成長していないにもほどがある!隊長職に就いてまで、子供の頃と同じことをする気なのか?!」
びくっと肩を竦め、テオは恐る恐るリュイスを見上げた。
本気で叱り付けるこの顔も、めったには見られないものだ。
幼い頃、リュイスを守ろうとして怪我をしたテオは、やはりこんな風に叱られた。
「命がけで守られて、喜ぶ奴などいるものか。それが大切な仲間なら、なおさらだ。お前のやったことは、ただの自己満足にすぎない」
「リュイス様…」
「生き残った方はどうする。一生苦しみながら生きるのか?お前の命を犠牲にした重責で、自ら死ぬことすら選べずに?…父親と同じ過ちを、繰り返すな」
テオははっとして目を見開いた。
元帥だったリュイスを守り、死んでいったテオの父。誰もが褒め称えた父の死に様だが、リュイスの思いは違うのだろうか。
そういえば確かに、リュイスは棺の中の父に向かって呟いていた。
誰が勝手に死んでいいと言ったのか、お前の代わりはいないんだと。
「ごめん…なさい…」
俯いたテオはリュイスのシャツを握り締め、小さな声で呟いた。
そんなに苦しんでいるとは思っていなかったのだ。父の死は悲しかったが、その死に様はテオにとって、いっそ憧れでもあったから。
自分もいつか、リュイスの盾になって逝けたらいいとさえ思っていた。
強く抱きしめられる。
リュイスはまるで離すまいとでもしているように、自分の腕の中にテオを閉じ込めていた。
「あまり私を心配させるな…」
「リュイス様…?」