「何もされなかっただろうな?私以外の者が、この身体を…」
「あ、ありません、そんなことっ」
頬を染めてテオが否定すると、強く抱きしめる腕が少し緩くなった。
間近になった緑の瞳が、真偽を確かめるようにテオを見つめる。その真剣な光にうろたえて、テオは思わず視線を下げた。
「あの…だって、ほんとに」
「テオ」
「それはその…ちょっと、危なかったですけど…」
確かに一部の兵士から身体を狙われたのは、事実だ。しかしテオは自分の力で危機を脱したのだから。
俯いたテオがぼそぼそ言い訳をしていると、リュイスの忌々しそうな舌打ちが聞こえた。その音にむっとしたテオが顔を上げる。
「でもそんなこと、貴方には関係な…ん、んっ」
リュイスはいきなりテオを抱きすくめ、無理やり唇を合わせてきた。
「んっ!や…ぁ、んんっ」
顔を背けようとするテオを許さず、普段の横柄な態度が信じられないくらい切羽詰った様子で、リュイスは性急にテオの唇を求める。
親指を差し入れてテオの口を開けさせたリュイスは、絡め取るようにしてテオの舌を吸い上げていた。
ぞくっ背中を走った感覚に、テオはここに閉じ込められていた時、一度もリュイスと唇を重ねなかったことを思い出す。あの時は、一方的に身体を貫かれるばかりだった。
「ゃ…ぁんんっ、ふ、ぁ」
「テオ…テオ」
掠れた声で名前を呼ばれた。
繰り返し重なる唇に翻弄されて、テオの身体からは次第に力が抜けてしまう。
思うままテオの口の中を味わったリュイスは、名残惜しそうにテオの唇を吸いながらゆっくり離れて。
じっとテオを見つめた。
「本当に何も、されなかったんだな?」
「っ…ぁ、ぁ」
「テオ」
「な、い…されて、ない」
「こんなことをした相手は、私だけか?」
「そう…です」
涙を浮かべて頷いたテオに、リュイスは満足そうな笑みを浮かべていた。その瞳の優しい光。テオは思わず息を呑む。
「そうか…私だけか」
やけに嬉しそうなリュイスの呟き。
どうしていいのかわからず、テオがぼうっとした表情でリュイスを見つめていると、彼はいきなり何かに急き立てられるような勢いで、テオの服を脱がせ始めた。
慌てるテオの上衣を診察台の下に放り出し、強い力で肩を押したリュイスが深刻な表情で、倒れこんだテオを真上から見つめている。
「あ…の、リュイス様…?」
「テオ」
「…はい」
何が起きているのかわからなくて、昔のように素直な返事を返すテオは、驚きを隠せずにいた。
リュイスの深い緑の瞳は、潤んでいるようにも血走っているようにも見える。こんなリュイスを見るのは初めてだ。
「頼む」
「え…ええ?!」