テオの中に生まれた、疼くように熱い気持ちは、もしかしてずっとここにあったものなのだろうか。
無理やり自分を抱いたリュイスに篭絡されたわけではなく。ちゃんと幼い頃から、この胸の中に。
リュイスの手を逃れたとき、ぼろぼろ泣いてしまった自分。あれはリュイスとの別れが決定的になったのを知って、自分の中にある想いの実が行き場を失ったから、零れた涙なのかもしれない。
テオはきゅうっと腕に力を込め、リュイスに抱きついた。
「うん?」
「…キス、したいです」
まっすぐ見つめた緑の瞳が、嬉しそうに微笑んだ。それだけでテオの胸は痛くなってしまう。
綺麗な顔が近づいてくる。
テオは自分の中で抗い続ける何かを、そっと宥めるような気持ちで、目を閉じた。
ゆっくり重なった、柔らかな唇の感触。
頭を撫でてくれる手が気持ちいい。
何度か触れ合った唇が、新しい熱を移して離れていったとき、テオは溜息を吐いてリュイスの胸に身を預けていた。
顔のそばに揺れる、リュイスのペンダント。これを取り戻しに来た、と彼は基地で言っていたけど。本当にそれだけだったんだろうか。
「リュイス様」
「どうした」
「…これ」
指先でペンダントをつつき、テオは視線を上げる。
「大事なもの、なんですか?」
「…なぜそう思う」
「王宮にいた頃もずっとつけていたし…さっきもこれを取り戻しに来たって、言ってたから」
「…………」
「僕、そんなに大事なものだとは思ってなかったんです。首にかけたままここを飛び出してしまったけど、貴方から奪おうなんて少しも考えてなくて…」
「そうか」
「あの時…リュイス様がレフ様と話しているの、聞こえたから…」
早くテオを海賊の仲間にして、内通者にしてしまえ、とレフは言っていた。その上で王宮に帰すことを、リュイスは仲間に約束したとも。
自分を蔑ろにされたのが悔しかった。
簡単に海賊の仲間になるような人間だと思われたのも、悔しかったけど。でもそれより、リュイスにとって自分が捨て駒に出来る程度の存在だと、知ったから。
テオはあの時、リュイスに剣を向ける覚悟を決めたのだ。
思い出して悔しげに唇を噛むテオを見つめ、リュイスは少し眉を寄せる。
テオは強い瞳でリュイスを睨んだ。
「海賊になんか、ならない」
「ああ。わかっている」
「でも」
「わかっているよ、お前が頑固者だということは」
柔らかくテオの頬を撫でるリュイスは、苦笑いを浮かべていた。